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《歯を使う》のは久しぶりかも、とデザインの「カイゼン」について考えた(旅で★深読み)

一泊二食の宿泊費をかなり低価格に抑えた岐阜県内の温泉ホテルに泊まった時のことです。

風呂上がりにエレベーターに乗ったら、バイキングレストランから出て来た老夫婦が同乗し、ジーサンが、
「なんだ、あの料理は! 食えたもんじゃないな!」
と不平を漏らしていました。
バーサンに言ったのか私に言ったのか不明だったので黙っていましたが、バーサンが、
「あんた、そんなこと、こんなところで言わんでも……」
なだめていました。
もし、私に同意を求めているのが明白だったら、
「まあ、払った金額相応の料理だったんじゃないですか」
と言ってジーサンをさらに怒らせていたかもしれない。

それにしても、そのホテルのコスト抑制は徹底しており、温泉宿に付き物の「お茶菓子」は部屋になく、トイレットペーパーはもちろん1重なのはともかく、芸術的かとも思えるほど薄く、温泉で使うタオルも異常に薄い。
テレビのリモコンは、電池が残り少ないのか、安い電池なのか、5センチぐらいまで近づけないと操作できない。
(もう「リモコン」とは呼べない……)

ところで、私のヒゲは直立した剛毛のため、温泉宿で支給されるシェイバーとの相性はきわめて重要な評価項目で、高級ホテルでも私のヒゲと戦って敗れ鮮血に染まるシェイバーを提供するところは最低ランクです。
その安宿は、いかにも安価そうな使い捨てシェイバーでしたが、海外製ではなく、近隣の関市に拠点のある有名メーカーの製品でした。
おそらくそのメーカーでは最下層の量産品でしょうが、1回だけならたいへん良く剃れたため、個人的にはこの安宿に「マル」評価をあげました。
ヒゲソリで温泉ホテルを評価? ── そうです!

脱線しますが(というより、これより上の記事がほぼ全域「脱線」ですが)、ヒゲにまつわる「おバカなエピソード」も貼り付けておきます:

さて、このホテル、支給される歯ブラシも当然、小ぶりで見るからに低コスト品ですが、
(……まあ、宿泊費に相応したモノじゃないの)
と考えるタイプの私です、不満を抱いたわけではなく……。

歯ブラシの入っているプラスチックパックに「くさび状の切れ目」がついています。その両側を指で引っ張って開けますよね。

それが開かない。

……指が痛くなってきました。仕方がないので、

歯で噛んで、引っ張って開けました!

その瞬間、

食事以外に《歯を使う》って、久しぶりかも!

と思いました。

もう、
「EUREKA!」
と叫んで裸で風呂から飛び出したアルキメデス状態でした。

私が子供の頃、《歯》はあらゆる場所で活躍していました。

さすがに活躍頻度では《指》に一歩も二歩も譲るとしても、《指》が降参!する数々の「難題」を解決してきたものです。

お菓子の袋など、当時のプラスチック製品に「開け口」のように親切な構造はなく、ギザギザ構造にもなっていなかったので、この安ホテルの歯ブラシパックのように、歯で開けたものです。
家にあるハサミといえば、裁縫用の大きなものだけで、そんなものをわざわざ取りに行く子供は(たぶん大人も)いなかった。
開けやすい切れ目を入れると、出荷や陳列の過程で偶発的に開いてしまう「事故」を怖れていたのでしょうね。

固く締まった飲み物の栓も、歯で咥え、手で回して開けたこともありました。
(中には、ビールの王冠を歯で抜く、と豪語するオジサンもいましたね……)

母は裁縫の時、糸を歯(「犬歯」は誰もが「糸切り歯」と呼んでいた)で切っていた。
切った糸の端を舐めて尖らせ、針孔に通し易くする「次のプロセス」との整合性も良かったのでしょう。

テレビのプロレス中継では、ヤスリで歯を尖らせているという「吸血鬼」ブラッシーが、グレート東郷に噛みつき、流血させていた……っとっとっと、これは違うな。

それが、いつの間にか《歯》を使わなくなった。

・衛生上の問題に敏感になった。
・ハサミや栓抜きなどのツールが安価になった。

そして何より、
・菓子袋など、(日本の)製品が「カイゼン」の積み重ねで簡単に手で開けられ、しかも、意図しない形では開かないデザインになった。
というのが大きいでしょう。

「日本の」と書いたのは、私が1990年代前半に渡米した時、日本の多くの製品は既に、
《道具として歯を使わなくて済む》
デザイン
でしたが、米国に行くと、
《歯を使わなければならない》
パッケージばかりだったからです。

マヨネーズが相変わらず瓶詰めで売られており、毎回スプーンで出さなけりゃならないのを見て、アメリカという国は(というより、日本以外の国は)デザインの「カイゼン」をしないんだな、と思ったものです。

‥‥‥‥‥

さて、切り込みはあるのに指ではあかない安物歯ブラシパックに戻ります。
おそらく、マトモな製品は、「形のデザイン」として切り込みがあるだけではなく、プラスチック袋の素材にも工夫があるのでしょう。
その安物メーカーは、「形」はデザイン通りに作っても、素材までは手が回らないのでしょう。
というより、素材までは手が回らない価格での製造を強要されているのでしょう。

でも、そのおかげで、久しぶりに《歯》を使うことができました ── 原始の時代からご先祖様たちが《道具》としていろんな場面で使ってきた《歯》を。

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