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真夏のワンルームにて。

聴いたその時の空気まで思い出す音楽がある。


大学2年の夏だったと思う

その頃の私と言えば、大学生の夏休みにありがちな自堕落生活を送っていた

壁の薄いアパートに帰ってくると、とりあえず借りてきた映画のDVDを観て、いいなと思ったら何回も何回も繰り返し観る

当時大好きだった映画は
『鉄コン筋クリート』と『LEON』

真っ赤なノートパソコンにディスクをセットしたら、映画を観てるんだか、寝てるんだかわからなくなって、気がつくとカーテンの向こうがずいぶん明るくなっている生活

外がうだるように暑いから、そのせいで脳まで溶けてしまったみたいな、だるいだるい毎日

なんとなくいつも頭が痛くて、いつも不機嫌だった。

そんなある日

いつものように映画を観ていて、そのまま寝てしまっていたらしい

閉めっぱなしのカーテンの向こうは暗いから、おそらくは夜だけど
もしくは夕方、あるいは朝なのかもしれなかった

エアコンの室外機が、息も絶え絶えに動いているのが聞こえた

そして何を操作したのか覚えていないけれど、暗い部屋でPCのiTunesが起動したままになっていて、ストックされている音楽がだだ流しになっていた

あー寝ちゃったのかと思っていたら
聴こえてきたのがEGO-WRAPPIN’の
『天国と白いピエロ』だった。

突然無音の中から、歪んだエフェクトのエレキギターが響いてくる。
水の底からゆらりゆらりと浮き上がってくるように、1音ずつ、ゆっくりと。
そしてそれはみるみるうちにフレーズの波を作る。
その波にピアノとベースとドラムが滑り込んで、大きなうねりになる。
やがてその波が落ち着いた頃、小気味いいピアノのイントロがやってくる。
それはリズム隊を伴って、まるでカーニバルのピエロが踊るように歩くみたいに進む。

すると、ハスキーでよく響くボーカルが、自由に唄い出すのだ。


自堕落と頭痛で靄のかかった頭が、ガツーンと殴られたような衝撃


めちゃくちゃかっこよかった。


やがてその曲が終わると、問題提起するようなピアノのコード進行から流れ出す8分の6拍子

『ニュースタイム』だ

不協和音の中でただようように流れるボーカル
ごちゃごちゃした街並みに日が暮れて、昼と夜が曖昧になっていく時間の中を泳ぐように歌詞が進む
おそらく場面は黄昏時なのに歌詞は
『おはよう いつものニュースタイム』
時間の感覚が、曖昧な和音の中で混ぜられてわからなくなって、それでも最後はゆっくりと着地する。

すると突然銅鑼の音が鳴ったかと思うと、けたたましくブラスが鳴り響いて始まるのが『Mother Ship』

一転してテンポの速さにくらくらする。

ブラスの波に乗ってギターのカッティングに両脇を抱えられて、ボーカルの表情豊かなメロディラインに舵を取ってもらって
気がつくとそこは大海原。白い光の海のなか。

しびれた。

こんなに音楽に意識を持っていかれたのは初めてだった。


あのとき偶然流れてきたのがEGO-WRAPPIN’のアルバム『On the Rocks!』で、本当によかったと思う。

ジャズってカッコイイ。

自由に飛び回る音たちが本当に楽しそうで、こんな風に音を楽しめるようになったらどんなに嬉しいかと憧れた。
あの時は『この不機嫌な気持ちのまま死ぬのかな』なんて半分本気で思っていて、何もかも無気力になっていた。

そんな気持ちが一気に晴れたのだ。


このアルバムの中であともう一つ、大好きな曲がある

それは5曲目の『マスターdog』

古びたオルガンのような音でイントロが進行していくのだけれど、その頭上には薄暗くて消えかかったネオンがひしめいていて、路地裏の換気扇からオムレツを作るような音が聴こえてくる
おいしそう、と思った瞬間ドアが開く
その温かい光の向こうに、くたびれた、でも優しい目をした人が待っていてくれる

そこは一度は憧れた、大人の世界だった。

街のネオンが灯って消えるまで、雨の日も月灯りの日も開いてるお店。そんな風景。

私にとってこの曲は、行ったことのない世界を自由に思い浮かべられる、物語の入り口のような曲なのだ。



実は、そんなモラトリアムを過ごした時に聴きまくっていたEGO-WRAPPINが高崎にやってくるというので、先日ライブに行ってきました。

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新しいアルバムの曲が盛りだくさんで、でもお馴染みの曲も勢揃いした、大満足なライブでした。


結局大学生の時はビビりで、お酒の飲める大人のお店にも、EGO-WRAPPIN’のライブにも行ったことがなかったけど

あの時の自分に会えるなら、あのアルバムを聴き終わったタイミングで
『すぐライブのチケットを取りなさい』と叫びたい

そのアルバムはそこから10年以上も聴き続けることになるけど

ライブはその100倍サイコーだったからねって。



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