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国土が狭い日本、洋上風力の可能性は如何に?【脱炭素戦略#3】

お疲れ様です。ローストピーナッツにハマりました。Shinです。

さて、前回は太陽光発電にフォーカスし、日本での展開における課題について触れました。太陽光パネルは都市部の壁面や屋根などの部分的に展開できるという融通はできるものの、大規模な発電設備としてメガソーラーとして本格的に展開するためにはある程度の敷地が必要になります。国土が狭く大陸国と政治課題を抱える日本では、太陽光は実はあまり相性が良いと言えないのでは、というのが前回の内容でした。

さて、それでは日本の地理環境や地政学環境を踏まえて、再エネとして何が選択肢として有用なのでしょうか。日本は島国であるために領土は大陸の大国と比較し制約されていますが、その分広大な領海を持ちます。そこで一つの鍵は「」にあるのではと考えます。

ということで、今回は海を活用した「洋上風力」について触れてみたいと思います。

電源構成から見た洋上風力発電の現状

そもそも日本における洋上風力の現状はどうかというと、日本風力発電協会の発表によれば、2021年末時点で風力発電全体で4,581MW、洋上風力発電に限定すると51.6 MWです。割合を取ってみると、風力発電全体に占める洋上風力発電の割合はわずか1.1%です。

なお、環境エネルギー政策研究所によれば、2021年時点での日本における電源構成のうち風力発電が占める割合は0.9%です。そのうち洋上風力発電は1.1%ということですので、実質的に現状の電源構成においては洋上風力発電は無いに等しい状況であると言えます。

さて、そんな状態から洋上風力発電は今後どこまで伸ばしていくつもりなのでしょうか。2020年に発足した「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」による「第1次洋上風力産業ビジョン」には、2030年・2040年をターゲットとした案件創出目標が掲げられています。

政府は、年間100万kW程度の区域指定を10年継続し、 2030年までに1,000万kW、2040年までに浮体式も含む3,000万kW~4,500万kWの案件を形成する。

洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会
第1次洋上風力産業ビジョン 2020年

先ほど、2021年時点では洋上風力発電の発電量は51.6MWとありました。これと比較すると、2030年の1,000万kW(=10,000MW)は現状の約194倍の規模であることが分かります。2040年を3,000万kW(=30,000MW)は約581倍です。

なお、2040年の目標値最大である4,500万kWは、世界第3位の市場形成を目標とした場合の値です。国際エネルギー機関(IEA: International Energy Agency)の2040年の予測では、第1位はEUの12,700万kW、第2位は中国の10,700万kW、第3位はアメリカの3,800万kWです。もし本当に日本の洋上風力発電が4,500万kWの案件創出目標を達成し、諸外国がIEAの予測通りの結果となった場合、日本の洋上風力発電はアメリカの規模を越えることになります。IEAの予測では日本の2040年の洋上風力発電量は400万kWですので、IEAの予測を大きく越える市場成長を果たさなければなりません。

洋上風力推進のための政策スキーム

先に見た通り、日本は現状や国際機関の予測に反した大規模な成長戦略を掲げています。これを現実にしていくためには、抜本的な法制度の整備や事業の財政的支援の体制によって積極的に事業創出ができる市場環境を準備することが求められます。

特に洋上風力政策を推進するためには、以下のような課題が挙げられます。

課題① 海域利用に関する統一的なルールがない
課題② 先行利用者との調整の枠組みが不明確
課題③ 高コスト

経済産業省 国土交通省
洋上風力政策について 2022年

洋上風力を事業化するためには大規模な設備投資が必要であるとともに、投資回収は長期を想定することになります。長期で洋上風力設備を展開するということは、その海域が利用可能であることを保障されなければ、事業継続におけるリスクになります。例えば、漁業組合等の反対運動によって事業継続が困難になるリスクが常に存在し、場合によっては大規模な設備投資を回収できないまま事業を撤退せざるを得ない状況になる可能性も考えられます。そのため、事業者にとってこれらの課題は事業継続上のリスクとして許容し難いものであり、案件創出の阻害要因となっていました。

これらの課題に対応するため、2019年に「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」が整備されました。

再エネ海域利用法では、各都道府県にて案件創出後、案件対象の海域は準備区域または有望区域として整理されたのち、自然的条件や先行する漁業や海運業への影響を踏まえて促進区域に認定されます。促進区域に認定された海域は、その後の事業公募を経て再エネ海域利用法の認定対象として、事業者は最大30年間の占有許可を国交大臣・経産大臣より与えられます。

既に促進区域として8区域が認定されており、そのうち4区域は事業者選定済みであり、残る4区域は事業者選定中の段階にあります。

これにより、各事業者は海域利用における事業継続リスクをある程度回避することができるようになり、促進区域に指定された海域は事業者を誘致しやすくなりました。

現在、経産省と国交省の共同で調査対象区域の情報収集が行われています。2023年3月には都道府県に対し案件形成情報の提供依頼が、2023年7月には事業者からの情報提供依頼がそれぞれ展開されています。これにより提供のあった案件について今後精査が行われ、推進すべき事業の選定が行われます。

おわりに

今回は日本における洋上風力発電の現状と、2030年のビジョン達成に向けた洋上風力政策のスキームについてご紹介しました。次回はぜひ実際の案件や事例などを取り上げてみたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。




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