第2回 パーパスとは何か
前回、VUCA時代のプロジェクトには、以下のような問題があり、このような特性に対処していくにはパーパス・ドリブンのコンセプチュアルプロジェクトマネジメントが必要だということを述べました。
・計画段階でプロジェクト目標が明確になっていない
・スコープ(成果物)変更が頻繁に起こる
・リスクとして想定していなかった問題が発生する
・一からやり直しのような大きな変化が起こる
・プロジェクトの規模が大きく、サブプロジェクト間の成果の関係が見えない
・組織や顧客のプロジェクトに対する要求や期待がどんどん変わる
・経験者がいない
・使える技術や手法が分からない
今回は、パーパスとは何かについて解説したいと思います。
◆はじめに
パーパスでプロジェクトを動かすことについて、日本で最初に必要性を指摘したのは目的工学を唱え、目的工学研究所の代表をされている紺野登先生です。前回も紹介しました、この本で、かなり詳しく紹介されています。
紺野 登、目的工学研究所「利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか」、ダイヤモンド社(2013)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478010080/opc-22/ref=nosim
目的工学が目的にしているのは、イノベーションの推進です。イノベーションのプロジェクトは従来のようなプロジェクトマネジメントではうまく行かず、パーパスに注目してプロジェクトを推進していく必要があるということで、独自のプロジェクトマネジメントの手法を提唱されています。
この連載では、イノベーションだけではなく、
1.経験自体の価値
2.最適化の意味
3.予測(計画)の価値
の3つがなくなるVUCA時代のプロジェクトを前提にしたプロジェクトマネジメントを解説していきます。
それはPMBOK(R)をベースにし、コンセプチュアル思考でパーパスをマネジメントし、プロジェクトを動かしていくようなプロジェクトマネジメントになります。
そこで、まずは、パーパス(purpose)とは何かを明確にして行きます。
◆パーパスとは何か
パーパスは日本語では「目的」という意味ですが、マネジメントの中で使われるパーパスの意味はもう少し強く、「存在意義」を意味する概念です。パーパスは企業のビジョンやミッションを定義するための根幹となる概念として使われます。
欧米の先進企業では、パーパスを明確に打ち出し、それを軸にしてコンセプト、戦略、社員の行動様式まですべてを統一するようになってきています。これは、「パーパス・ブランディング」と呼ばれるアプローチで、例えば、BIOTOPE代表の佐宗邦威さんは
「パーパス・ブランディングを実践するために組織の存在意義をデザインする」
というハーバードビジネスレビューの記事でいくつかの企業のパーパスが紹介しています。例えば、
「自社製品に最高のクオリティーと価値を与え、世界中の顧客のニーズを満たす」(P&G)
「持続可能なエネルギーへのシフトを世界中で加速させる」(テラス)
「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」(メルカリ)
といったものです。
◆ミッションとパーパスの違い
パーパスの定義や例を見ていますと、従来のビジョンやミッション、あるいは戦略とどう異なるのかという疑問を持つ人も少なくないと思います。特に、ミッションとパーパスはどう違うかは微妙です。ここでは、ミッションと相重なる部分はあるかもしれませんが、パーパスは新しい概念と考えて議論しています。
どうしても、気になる人は、ミッションは「自分たちは何者でありたいか」を表し、パーパスは「自分たちは何のために存在しているのか(存在意義)」だと考えておいてください。
ただし、ミッションという言葉には「与えられた」というニュアンスが含まれているのに対して、パーパスは自分事として捉えることには注意をしておいてください。例えば、「業界でNo.1企業になる」「XX億円企業になる」というミッションはパーパスではありません。
この点は、マネジメントにおいて重要な意味があります。
◆パーパスは組織から個人までに統一的に捉える
パーパスの興味深さは、これまでのビジョンやミッション、戦略などの方法と異なり、組織から個人まで統一的に捉えようとしていることです。
たとえば、ミッションを示している企業は多いですが、組織全体に浸透している組織は少ないと思われます。その理由は上に述べた自分事のパーパス、与えられるミッションという性格に関係してきます。企業としてミッションを掲げて事業部などの上位組織ではそれなりに意識した戦略に落とし込んでいるものの、課などの業務組織やプロジェクトにおいては他人事になっていることが多いという現実があります。ましてや、個人に至っては全くの他人事、つまり、意思決定の中にビジョンが入ってくることはまずないといのが現実です。
これをどう捉えるかですが、米国で言われる「ミレニアル世代」(2000年代に成人あるいは社会人になる世代)の人たちの価値観にはミッションは合わないと言われます。ミレニアル世代を活かすには、個人のパーパスが重要で、個人のパーパスとのマッチする組織のパーパスを打ち出していくことが不可欠なのです。
その意味で、組織のパーパスを定めるには、組織に集う人すべてが自分事にできることが重要なのです。言い換えると、その企業の内部で通用する価値観ではなく、世の中で通用する価値観にマッチしたパーパスを定める必要があります。この議論は深い議論で、この議論の中に市場に対する感性のようなものも包含されており、それがビジネスの成功につながっていくと考えられます。
この点は、各メンバーが自立していると考えるプロジェクト活動では非常に重要な意味があります。極論すれば、プロジェクトはミッションでは動かないけど、パーパスなら動くとも言えるからです。このため、プロジェクトは一企業の枠を超えて編成することもあり、そこに参加する人たちが共感できる価値観にマッチしたパーパスが必要なのです。
◆パーパスの統合
さて、このようにパーパスという概念では、前提として、組織のパーパスがあり、プロジェクト(チーム)にもパーパスがあり、個人のパーパスがある。そして、それらを統合するためにはどうすればよいかということが意思決定の前提になります。このような統合を行うためには、それぞれが行いたい活動の本質を見極め、合致させることが不可欠です。
まず、個人のパーパスと組織のパーパスの関係ですが、これは個人が組織のパーパスに共感できるか、すなわち、組織と個人のパーパスが整合するかによって相互に選ぶことがすべてだといえるでしょう。共感できるのは行いたい活動の本質が合致しているからです。
次に、プロジェクトのパーパスを定めるに当たっては組織のパーパスや個人のパーパスとの統合を行う必要があります。このためには、コンセプチュアル思考でそのプロジェクトでそれぞれが実現したいことの本質を見極め、プロジェクトのパーパスとして設定する必要があります。簡単にいえば、組織のパーパスや個人のパーパスを実現することができるプロジェクトのパーパスを定めることです。
これを行うのは最もはプロジェクトマネジメントの役割です。プロジェクトマネジメントでは、プロジェクトのパーパスを決めた上で、プロジェクトの計画を作っていく。その意味で、パーパスによるマネジメントがもっとも行われている分野だといえます。
◆良いパーパスを決めるには
このように考えていくと、まず、考えなくてはならないのはパーパスは主観であるということです。こうあるべきだという正解はなく、組織は自分たちのパーパスを組織としての主観で決めます。個人は個人のパーパスを自分で決めます。
主観で決めるということは好き勝手に決めてもよいことではありません。好き勝手に決めると整合性が取れなくなってしまいます。では、どうやって決めればよいのか。
明確な方法論があるわけではありませんが、一つの方法としては
「社会において自分に与えられた役割」
を考えてみることです。言い換えると、自分が実現(提供)できる価値は何かと考えてみることです。
これによって、組織、プロジェクト、個人のパーパスを調整していくことになります。ここは順番があるわけではありませんが、組織と個人は常にあるもので、プロジェクトは一時的なものです。従って
・組織が社会のために何ができるか
・個人が社会のために何ができるか
がら調整し、その上で整合するようにプロジェクトのパーパスを見つけていくと考えた方が現実的かもしれません。
次回はパーパスを使ったプロジェクトマネジメントの全体像について説明したいと思います。
◆関連セミナー
パーパス・ドリブンのコンセプチュアルプロジェクトマネジメントについて学ぶセミナーです。
━【開催概要】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆パーパス」でプロジェクトを動かす
コンセプチュアルプロジェクトマネジメント◆(7PDU's)
日時:2020年 09月 16日(水) 10:00-18:00(9:40受付開始)
場所:国際ファッションセンター(東京都墨田区)
講師:好川哲人(エム・アンド・ティ コンサルティング代表)
詳細・お申込 https://pmstyle.biz/smn/conceptual_pm.htm
主催 プロジェクトマネジメントオフィス、PMAJ共催
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【カリキュラム】
1.VUCA時代に求められるプロジェクトマネジメントの特徴
2.成果と成果物を分けて考える
3.プロジェクトのパーパスを決定する
4.プロジェクトへの要求の本質を反映したコンセプトを創る
5.コンセプトを実現する本質目標を決定する
6.本質的な目標を達成する計画を策定し、実行する
7.トラブルの本質を見極め、対応する
8.経験を次のプロジェクトに活かす
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