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ソーシャルPM手法の勉強会 Vol.2 〜ソーシャル・アジャイル手法〜

こんにちは。ソーシャル・プロジェクトマネジメント研究会の鬼塚です。

前回の記事「ソーシャル・プロジェクトマネジメント手法(SPM手法) Vol.1 ソーシャルデザイン思考」に続き、第4回目〜5回目の勉強会で取り上げた「Vol.2  ソーシャル・アジャイル手法」を紹介します。

ソーシャルデザイン思考を「仮説をつくり、プロトタイピングによる試行錯誤を繰り返し、ソーシャル課題解決(社会課題解決)に導くというアプローチ」と説明しました。この試行錯誤をどのように進めるか、というところでソフトウエア開発では広く導入されるようになった「アジャイル」の考え方を提供しています。

参考)アジャイルとは? IPA https://dx.ipa.go.jp/agile より引用
「アジャイル(agile)」の名詞形である「アジリティ(agility)」とは、「敏捷」や「機敏」という意味です。ITやビジネスでは、方針の変更やニーズの変化などに機敏に対応する能力を意味します。 

社会課題はひとつの社会課題が別の社会課題とどこかでつながっています。例えば経済困窮家庭への学習支援をしようと取り組みはじめたら、居場所づくりや体験格差の解消などもスコープに入れたくなるかもしれません。あるいは親の課題にも向き合うこともあるでしょう。また、関わる学校や行政など、考慮が必要となるステークホルダーもさまざまで、さらには関連法や施策など、ビジネスのプロジェクトで開始前にほぼ示されているような明確なゴール設定や成果の測定が難しいものです。そのような場合に、受益者に寄り添い価値実現を軸とした「アジャイル」手法を適用するというものです。

SPM手法の提唱するデザイン思考とアジャイルのループ

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 「ソーシャル・アジャイル手法」では、アジャイルソフトウエア開発宣言の価値や原則となる「アジャイル・マインドセット」やアジャイルでの計画の立てる際のツール「インセプションデッキ」、そしてアジャイルで大切な振り返りを中心に説明しています。

  • アジャイル・マインドセット

世の中はVUCAと呼ばれる変動の時代です。社会状況の変化(誰が3年前COVID-19の流行で社会が変わり、さらなる変化が起きつつあることを予想していたでしょうか)、それに応じた社会制度の変化により、プロジェクトの成果物も見直すことがあります。この場合の根底にあるのが、顧客への提供価値、社会課題であれば自分たちが提供するモノやサービスの受益者への提供価値です。
受益者やチームのフィードバックを得ながら失敗からも学び、本当に必要なものを速く漸進的に作っていくためには、チームが自律的で心理的安全性を保ち、積極的なコミュニケーションにより、状況を分析し次のアクションを推進していく「アジャイル・マインドセット」を持つこがとても大事です。

アジャイルソフトウエア開発宣言には、「計画に従うより、変化への対応を」とありますが、「変わるから、計画を立てるのは不要」と言っているわけではありません。軌道修正をしていきながら、プロジェクトを実行するメンバーがぶれずに、共通の認識と目標を持って進めるために使われるのが「インセプションデッキ」です。

  • インセプションデッキ

予測型のプロジェクトの「立ち上げ」フェーズではプロジェクト憲章などが作成されますが、作成に時間がかかり、開発が始まると目にすることがなくなりがちです。アジャイルでは、関係者が皆でいつでも見て立ち返り、必要に応じて変更するのが「インセプションデッキ」です。

インセプションデッキはWhy とHowからなる10の質問と答えから構成されます。
(いくつかバリエーションがありますが、ここでは下記の10を挙げます。)

Whyの質問

  1. 我われはなぜここにいるのか(Why1)
    受益者を中心にした目的を明確にします。

  2. エレベーターピッチを作る(Why2) 
    短い言葉で、ステークホルダーに意義・目的をアピールします。

  3. パッケージデザインを作る(Why3)
    成果物のイメージを具体的にすることにより、イメージを共有します。

  4. やらないことリストを作る(Why4)
    スコープを明確にします。やりたいことはたくさん出てきますが、時間もリソースも限られていますので、「やりたいこと」だけでなく「やらないと決めること」 「今はやらないこと」をチームで合意します。

  5. 「ご近所さん」を探せ(Why5)
    ステークホルダーを明確にします。まずはどんな人が受益者か、やプロジェクトに協力してくれる人を洗い出しておくことが大切です。

Howの質問

  1. 解決案を描く(How1)
    どんな方法で?を明確にしてそのためにどんな技術やリソースが必要かを明示しておかないと、とりかかれないからです。

  2. 夜も眠れなくなるような問題 (How2)
    予測型プロジェクトと同様、想定されるリスクの洗い出しを最初にしておくことは重要です。

  3. 期間を見極める(How3)
    アジャイルでは確約ではありませんが、最初に大枠を作っておかないと見通しが立てられなくなります。

  4. 何を諦めるのかをはっきりさせる(How4)
    品質・コスト・期間・スコープのどれを優先させるか予め想定しておくことは必要です。

  5. 何がどれだけ必要なのか(How5)
    コストとどのようなリソースがどれくらい必要かを想定していくことはアジャイルにおいても必要です。

以上のような計画を立て、実行フェーズではアジャイルの真骨頂である、短期間で可能で具体的な成果物をつくり、受益者のフィードバックを元に、繰り返し(アジャイルではイテレーションといいます)を行っていきます。

この繰り返しの手法はいくつもあり、システム開発では「スクラム」(参考)というフレームワークが多く使われています。社会課題解決のプロジェクトにおいても、自分たちのプロジェクトにふさわしい粒度で、プロダクトバックログ(要求事項)を作り、必要に応じてWBSなどプロジェクトマネジメントの手法など取り入れて進めていくなど工夫していくことになります。

またアジャイルのイテレーション終了時の振り返りのツールに、使いやすいものではKPTがあります。K(Keep):チームが継続して行うべき良いことや成功したこと、P(Problem):チームが改善すべき課題や問題点、T(Try):次に試してみたいことや、改善するためのアイディア、について、チーム全員で一緒に振り返ります。

簡単ですが、以上がソーシャル・アジャイル手法のご紹介になります。

「アジャイル」で実行したプロジェクトの成果物を自分たちが目指す社会課題解決のためのサービスやモノとして持続的にしていくところで、ソーシャルPM手法では「ビジネスモデル」(リーンキャンバス)や、全体のステークホルダーとの関係を可視化する手法に「ステークホルダーマネジメント」があります。これらについては、次回以降の記事でご紹介します。

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