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ソーシャルPM手法の勉強会 Vol.6~ ポートフォリオマネジメント

ソーシャル・プロジェクトマネージメント研究会の長谷川万里子です。

去年改めて研究会メンバー向けにソーションPM手法の勉強会が実施され、それをもとに有志で入会メンバー向けに手法をトピックごとに1枚にまとめてみるという取り組みがありました。資料を眺めているだけだと「ふ~ん」で終わってしまっていたのですが、勉強会やまとめを通して消化することができました。ソーシャルポートフォリオマネジメントの説明と、まとめてみて感じたことを紹介したいと思います。

プロジェクトマネジメントとポートフォリオマネジメントの違い

プロジェクトマネジメントが「正しく行う」というのを目指しているのに対して、ポートフォリオマネジメントは環境変更に応じて「正しいことを行う」を目指しています。時間が経つと環境、状況、条件等が変わってきて優先順位が変わってくる、というのはビジネスの世界ではよくあることですが、ソーシャル活動においてもステークホルダーが多岐にわたるからこそ、変化の要因は色々あるのだと思います。だからこそ、ソーシャルPM手法の1つとして、ソーシャルポートフォリオマネジメントがあるのだ思いました。

PMI ポートフォリオマネジメント標準第3版を元にソーシャルPM研究会が加筆

プロジェクトポートフォリオとソーシャルポートフォリオの違い

ポートフォリオは書類入れのことで金融、教育、ファッション業界など様々な業界でも資産、書類、活動をまとめたものとして使われています。プロジェクトにおけるポートフォリオというと、事業ポートフォリオに近く、戦略的な目標を達成するためにグループとしてマネジメントされるプロジェクト、プログラム、サブポートフォリオ、および業務のことを指します。一方ソーシャルポートフォリオは、特定のソーシャル課題解決のために定義された活動を、財務価値だけでなく、社会価値(「ソーシャル・インパクト」と「ソーシャル・キャピタル」)で優先順位つけし、経営資源(人、物、金)を最適化していくこと、「何を捨てるか」を決めるツールになります。
ソーシャル活動においては、人、金、IT支援がキーとなりますが、人、金の資源をどの活動に優先させるか、またそれらを最大限に活用するためにもIT支援が大切ということなんでしょうね。

「ソーシャル・インパクト」「ソーシャル・キャピタル」とは?

©PMI日本支部

そもそも「ソーシャル・インパクト」「ソーシャル・キャピタル」とは何なのでしょう?私は聞きなれない用語だったのですが、ソーシャル・プロジェクトの評価体系の説明を聞いて腹落ちしました。 「ソーシャル・インパクト」は、活動や投資によって生み出される社会的・環境的変化のことです。社会的変化としては、平等、生活、健康、栄養、貧困、安全、正義などがあり、環境的変化としては、環境保護、エネルギー利用、ゴミ、環境衛生、資源の枯渇、気候変動があります。「ソーシャルキャピタル」は、社会的ネットワークとそこから生まれる信頼、規範といった、共通の目的に向けて効果的に協働活動へと導く「関係」資本のことです。自治体がゴミ集積所をたて、収集頻度をあげたり、住人がゴミ収集の規範を守るよう交代でパトロールしたりすることで、その地域が綺麗になり、治安も改善され、住みやすくなり、その地域の資産価値があがれば、まさにソーシャルインパクトが向上したと言えるのでしょう。そして自治体、住人、規範の関係が良好になっている状態こそがソーシャルキャピタルが高まったと言えるのでしょう。
事業会社でも財務価値だけでなく、社会的責任、コンプライアンス、働きやすさ等の視点での活動の優先順位がつけられるので、事業ポートフォリオでも評価をするのは財務価値だけではないと思います。ただ事業ポートフォリオだと事業戦略的な重要度と緊急度や、国際的な数値目標、社員満足度等、数値化し比較しやすいところがあると思います。一方「ソーシャル・インパクト」「ソーシャル・キャピタル」は数値化が難しく、心理的な感覚で評価せざるを得ないというのが、難しいところだという話が勉強会であり、私も同感です。

ポートフォリオマネージメントプロセス


プロセス自体は、ソーシャルポートフォリオマネージメントだからといって特別なことはありませんが、推奨している進め方であるコレクティブ・インパクトは特徴的かもしれません。( 出所は「コレクティブ・インパクト実践論」https://www.dhbr.net/articles/-/5677))
コレクティブ・インパクト(Collective Impact=集合的影響または集合的な成果)とは、社会課題の解決を目指す際に、自分の周り(政府、市民、業界全体)を巻き込んで、各々が持ち寄った知識や技術を使って「大きな効果」(共通の目的)を達成しようとする進め方です。これまでの「ポートフォリオ」は自身の組織(会社、NPOなど)の内部における優先順位の話でした。ただソーシャル課題については「自組織」単独で実施しようとすると、途方もない時間とリソースを要してしまうことが多い。そこで、共通の社会の課題に対しては、周り(自組織外)を巻き込んで、単独でやる場合の局所性や効率性を改善していこう、ということのようです。

コレクティブインパクトでは、すべてのプレイヤーが変革に向けた共通のビジョンを持って参画しなければなりません。また、課題に対する共通認識を持って、合意を得られた行動を通じて共に課題解決を行うものとしています。以下はコレクティブインパクトの取り組みを成功させる主な条件です。

  • 評価システムの共有 (Shared Measurement)
    コレクティブインパクトでは、すべての参加者が測定手法を共有しておのおのの成果を測定・報告し、それらを通じてさらなる学習・改善を行う必要があります。

  • 相互の活動の補強 (Mutually Reinforcing Activities)
    コレクティブインパクトでは、さまざまな領域のステークホルダーが集い、それぞれに特化した活動を通じてお互いを補強し合います。

  • 継続的なコミュニケーション (Continuous Communication)
    コレクティブインパクトでは、プレイヤー同士が継続的・恒常的なコミュニケーションをとります。

  • 活動を支えるバックボーン組織 (Backbone Organization)
    コレクティブインパクトでは、全プレイヤーの活動を把握する専任のスタッフがいる組織が存在します。

感想

20年位前に仕事でIT PMOを立ち上げてほしい言われ、ポートフォリオマネジメントについては勉強しましたが、「ソーシャルインパクト」「ソーシャルキャピタル」という言葉は、このソーシャルPM研究会で初めて知りました。毎年ソーシャルPM研究会でコミュニティキャピタル診断が実施されているのでアンケートには答えていたのですが、感覚的にしかわかっていませんでした。ソーシャルPM手法勉強会を通して、私的にはソーシャルにおけるステークホルダーとこの評価軸、「ソーシャルインパクト」「ソーシャルキャピタル」が一番ソーシャルと通常のプロジェクトマネジメント手法の違いだと感じました。

ソーシャルPM研究会は様々な業界、業種の方が参加しており、いろいろな知見を得ることができるコミュニティです。是非、今後もソーシャルPM研究会ブログを読んでいただき何かの参考にしていただければと思います。

ソーシャルPM研究会の活動に興味を持たれた方は、こちらからご連絡ください。入会前の見学も大歓迎です!
https://www.pmi-japan.org/socialsg/


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