見出し画像

「人間のためのプレイス・メイキング―誰もが健康に過ごせるまちの仕組みに関する実践的研究」の研究計画」

2024年2月8日公開
2024年9月4日更新


はじめに


「人間のためのプレイス・メイキング―誰もが健康に過ごせるまちの仕組みに関する実践的研究」は、兵庫県立大学を中心に、様々な大学の研究者が参加し、推進している共同研究プロジェクトです。この研究は、社会技術研究開発センター(RISTEX)の補助を受けて実施しています(申請タイトル「孤立・孤独予防に資する近隣社会環境の多様性の可視化による戦略的プレイスメイキング(研究代表者 兵庫県立大学 教授 内平隆之)

この記事では本研究の研究計画の概要を分かりやすく紹介しています。

1.私たちが目指すもの

 人間は他者との関わりの中で生活を営み、支え合い、喜びを共有しています。社会的な関わりを持つことは、健康や幸福につながっていると言われており、私たちにとって必要不可欠なものといえます。
 ところが、近年、高齢化、少子化、家族観の変容、人口減少等、様々な構造的な要因によって、他者との関わりを失い、心理的にストレスを抱える「孤立・孤独の問題」が生じており、今後、さらに拡大・深刻化すると予想されています。孤立・孤独の問題は本人にとって苦痛であるだけでなく、社会の活力を低下させる社会問題でもあります。
 本研究プロジェクトは、この社会的孤立・孤独の問題に対して、戦略的プレイス・メイキングという考え方で、従来とは異なる角度から解決策を示すことを目指しています。

2.独自性

 本プロジェクトの独自性は4点にあります。
 第一に、予防的視点です。従来、この問題に対しては、孤立・孤独に陥ってしまった人をどう支えるか、どう社会的に包摂していくかという事後的な観点で対策が講じられてきました。これに対して、本プロジェクトは、そもそも孤立・孤独にならないようにする予防的方法を検討しようとしています。(予防モデル)
 第二に、その方法として、近隣社会環境に着目する点です。従来から、孤立・孤独に陥っている人をいかに交流の場に誘い出すかが模索されていましたが、本人がそれを望まない場合も少なくありません。本プロジェクトでは、近隣社会環境の中に居心地が良く、自身の意義が感じられるような場所をつくり、ハイリスク者も含めた多様な人々が継続して関わるような営み(生活習慣)を創出していくこと(戦略的プレイス・メイキング)を目指しています。
 第三に、プレイス・メイキングの担い手としてエリアマネジメント組織を想定している点です。これまで地域課題解決の中心的な担い手であった行政機関と自治会の機能が低下してきている中で、両者を結び付けながら課題解決に向けて持続的に取り組むエリアマネジメント組織が期待されています。本プロジェクトでも、このようなエリアマネジメント組織を想定し、どのようなあり方が有効かを検討します。
 第四に、実践(実装)を通して戦略的プレイス・メイキングの知見を体系化していく点です。多くの研究では、欧米の事例や国内の先行事例の第三者的分析から知見を抽出していましたが、本プロジェクトでは、典型的な地方都市である姫路をフィールドとして、既存のエリアマネジメント組織に伴走しながらプレイス・メイキングを実践し、そのプロセス全体から知見を体系化していきます。
 なお、本プロジェクトを通して得られた知見は、学術論文として公表するだけでなく、本ウェブサイトを通して広く発信していきます。

3.具体的な研究テーマ

テーマ1:孤立・孤独のハイリスク者の特徴把握

 予防的対策のためには、すでに孤立・孤独に陥っている人のみならず、陥るリスクの高い人(ハイリスク者)の特徴・傾向を明らかにする必要があります。このためにハイリスク者を抽出し、彼らがどのような性格の傾向をもつか、また、社会(他者)とどのような接点を持ち、また、持ちたいと考えているか(社会的選好)、さらに、空間(周辺環境)をどのように利用し、また、どのように利用したいと考えているか(空間的選好)を把握します。これらを通して、孤立・孤独の要因を明らかにするとともに、ハイリスク者が社会と接点を持ち続ける糸口をつかむことができます。

テーマ2:孤立・孤独予防に資する近隣社会環境の可視化

 ハイリスク者に限らず、人々にとって立ち寄りやすく、誘いやすい場所が近隣にあることが孤立・孤独を予防することに繋がります(例えば、公園)。人によって性格や好みが異なることから、その場所も多様であることが望ましいといえます。そこで、孤立・孤独予防に資するような多様性のある近隣社会環境を可視化する方法を開発します。そして、この方法を用いて、具体的な地域(姫路)を対象に孤立・孤独予防の潜在力の高い地区とそうでない地区を峻別・色分けしていきます。

テーマ3:場所づくりの個別手法の開発

 プレイス・メイキングとは、人々にとって居心地がよく、自身の存在意義が感じられるような場所を作り出すことです。別の角度から述べるならば、ある特定の場所において多くの人々が心地よさを感じながら、自身の意義も感じられるような継続的な営み(生活習慣)を創出していくことに他なりません。そのあり方や手法には様々なものがあり得ます。散策行動に着目するもの、情報技術を活用するもの、移動式の装置を利用した仮設的なものなどです。本プロジェクトでは様々な手法を開発し、その有効性や条件について検討します。

テーマ4:エリアマネジメント組織の伴走支援方法の開発

 地域においてプレイス・メイキングを進める主体として、行政組織や自治会、NPOは余力やノウハウが十分ではありません。そこで注目されるのが、地域運営組織、まちづくり協議会といったエリアマネジメント組織です。これは、住民、事業者、地権者といった主体で構成され、行政や自治会、NPO等と連携しながら地域課題の解決に主体的に取り組む組織で、全国的にも期待されています。本プロジェクトでは、姫路のエリアマネジメント組織と連携し、プレイス・メイキングに関する知識や資源を提供しながら、伴走支援を実践し、他の都市にも適用可能なプレイス・メイキングの伴走支援方法を明らかにします。

研究体制


内平隆之(兵庫県立大学環境人間学部)/研究代表者

以下、五十音順
井関 崇博(兵庫県立大学環境人間学部)
伊藤 克広(兵庫県立大学国際商経学部)
牛尾 裕子(山口大学大学院保健学研究科)
浦川 豪(兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科)
尾分 達也(北海道大学大学院農学研究院)
佐々木 樹(兵庫県立大学環境人間学部)
田中 貴宏(広島大学大学院先進理工系科学研究科)
中桐 斉之(兵庫県立大学環境人間学部)
中嶌 一憲(兵庫県立大学環境人間学部)
前田 千春(鹿児島県立短期大学)
安枝 英俊(兵庫県立大学環境人間学部)
山本 明弥香(兵庫県立大学環境人間学部)
和田 真理子(兵庫県立大学国際商経学部)

財源

本研究プロジェクトは、社会技術研究開発センター(RISTEX)の「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム」「社会的孤立・孤独の予防と多様な社会的ネットワークの構築」の補助を受けて実施しています。

申請タイトル

「孤立・孤独予防に資する近隣社会環境の多様性の可視化による戦略的プレイスメイキング
研究代表者 兵庫県立大学 教授 内平隆之


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?