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デザインの勉強をしたことがない木工作家5年目の僕がやっているアイデアの発想方法3選ー前編(イントロダクション)ー

木や革、金属などの素材をミックスしたものづくりをしています。
キッチンツールや革小物を制作しているPLYLIST(プライリスト)の小尾口(こおぐち)です。

作家として独立したものの、作品にオリジナリティがなく、既存の商品や有名作家さんのデザイン、有名建築家のデザインなどにどうしても引っ張られてしまうことをとても悩んでいます。
そんな僕がこの悩みとどのように向き合い、どのように解決策を模索しているかということを順序立ててご紹介しようと思います。
ちなみに僕は美大出身というわけでもなく、デザインについて学んだことは一度もありません。
理系大学院を卒業した後は食品メーカーで研究開発職をしていました。

この記事(前編)ではすでに一般的に言われている発想の方法やプロセスについても簡単に触れています。
後編の記事では、現在僕がやっているアイデアの発想方法やデザインのプロセスをご紹介します(一部有料)。
「なーんだ、そんなこともうとっくにやっているよ」といわれる程度ものかもしれません。
ですが、ものづくりをしている自分が言語化して記事に残すということが結構重要な気がしています。
職人さんやものづくりをしている人たちは「丁寧に言葉で説明する」よりも「見て覚えろ」という人がまだまだいる気がしていますし、思考のプロセスに関しては言語化できている作り手を僕はあまり知りません。

ちなみに僕は現在進行形でまだ悩んでおりますが、独立3年目くらいから自分なりの方法を取るようになってからだいぶマシになった気がします。
ただ、まだまだ試行の余地はあるなと感じています。

ちなみに僕はこんなものを作っています。

四角形と三角形のスパイスミル
リブだけでフィルターを支えるコーヒードリッパー
分解できて両手でも使えるトング
娘のために作った子ども椅子

これらの作品についてもどのような発想、思考のプロセスでデザインしたのかをこの次の記事で解説しています。

それに先立ち、まずはこの記事でその前提となる部分や一般的に言われていることについて触れておこうと思います。

前置きはいいから具体的なプロセスを知りたいという方は後編から読むことをおすすめします。↓

この記事を読んで得られる(かもしれない)こと

  • ものづくりの世界、クラフトや工芸(特に木工)の世界に生きている人が陥りがちなデザインや思考プロセスの原因が分かる

  • アイデアやデザインが浮かばない時の対処法を学べる

  • 競合との差別化のヒントになる

※素晴らしいアイデアが出る保証はゼロです。
あくまでいくつかの方法をまとめただけです。そして人によって合う合わないがあると思います。
ご自身が一番自分に合う方法を見つけ出すための参考になれば幸いです。
そしておそらく特別目新しい情報というものはないかもしれません。

ではこれから僕がいる木工業界や工芸やクラフトフェアなどのものづくり界隈の話をしようと思います。

陥りがちな罠と英霊の呪い

僕は木工業界に携わっています。
これからクラフト、工芸、特に木工に携わっている人ならよく目にする光景を紹介します。
他の業界では珍しいかもしれませんし、珍しくないかもしれません。
ですが、まったくゼロではないと思います。

これは僕の経験です。
決してディスっている訳ではないのですが、気に触る方がいらっしゃいましたら本当に申し訳ありません。

クラフトフェアはいろんな作家さんがいてとても楽しい。でもよくよく見てみると・・・

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ある時、展示会に行くとたくさんの家具が並んでいます。
しかし、パッと見た瞬間に「なんとなく似たようなものが並んでいる」と感じることが度々あります。

またある時は、クラフトフェアに行くと、いろんな作家さんがいろんなものを販売しています。
しかし、どれもこれもどこかで見たことがあるような気がするものばかり。
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おそらく、あらゆるものは全て「元ネタ」があるはずです。
この「元ネタ」がパッと見でどの程度「分かりやすい」かは、ものづくりやデザインをしている人にとってはかなり重要ではないでしょうか。

そして僕がかつて見たこれらはおそらく「元ネタが分かりやすい」のだと思います。

これは僕が想像するに原因は「インプットが似ているから」というのが少なからずある気がしています。
椅子で言えば名作椅子、有名建築家の作品などがそうです。
そういうものを見て憧れて木工を学び、憧れに近づきたい、追い越したいという想いで作品を作ります。すると、不思議なことに影響を受けた椅子や作品と似ているものができてしまうんです。

有名なところで修行した人は、いつか師匠に追いつき、追い越したいと願います。
しかし、どうしても修行時代のやり方、修行時代に作っていたもののデザインに引っ張られます。
完全に無意識のレベルで刷り込まれているため抜け出せません。
そのためみんな似たようなものを作るという現象が生まれてしまうのだと思います。

守破離で言うところの「破」とその先の「離」を目指していたはずが、気づいたら先人たちの威光が強すぎるため「守」から離れられない。
罠にハマってしまっているかのように抜け出せない。

もちろん、よく見るとリデザインされてディテールは違うし、オリジナルのものよりも優れている点もあると思います。
しかし、木工とは無縁の人がオリジナルと比較して見たら、果たしてその些細な違いを見分けることができるのでしょうか?
なかなか難しいのではないでしょうか?
(木工とは無縁の人は、元ネタとなったオリジナルの存在を知らないだけで、目の前にある作品がまるでオリジナルのように見えるため、素晴らしいデザインの椅子だ!と思う人が多いのだと思います。)

名作椅子や有名建築家、弟子を多く抱えるような有名作家は素晴らしい功績と大きな影響を及ぼしました。
しかし、逆に言えば、作る側からしたら無視できないレベルで刷り込まれ、デザインするもの、作るもの全てにどう足掻いてもその残り香が付いてしまう呪いのような側面もあると思っています。
これがある意味、後世の作り手を悩ませる英霊の呪いとも言えるのではないでしょうか。

呪いから逃れる方法

ここまでまるで自分は呪いから無縁である人のように書いてきましたが、まったくそんなことはありません。
僕自身も呪いから逃れられていませんし、どうしたらこの呪いから解放されるのだろうかといつも悩んでいます。
ただ、独立した直後に比べると呪いから少し距離を置くことはできるようになった気がします。
その方法は「違う業界や異業種で言われていることを転用する」というやり方です。
例えば、ビジネス界隈で言われているプロダクト開発の方法を転用するなどです。
その例をいくつかピックアップして紹介しましょう。

プロダクト開発における思考法3種

ビジネス界隈をのぞいてみると、そもそもプロダクト開発の思考プロセスにはいくつかの種類があると言われています。
よく言われているものの中に、アート思考デザイン思考ロジカル思考など、いくつかのプロセスがあると言われています。
これらを作品づくりに転用するというのが1つの方法です。
もちろん、ガチガチに突き詰めてやる必要はないと個人的には思います。
つまみ食いする程度でもいいと思います。(もちろんそれでは表面的に過ぎないという人も大勢いらっしゃると思いますが)
では上記の3つについて簡単に説明します。(ちなみに僕は専門家ではなく、ウィキペディアにある情報をちょこっと見た程度の知識なので間違っていたらごめんなさい)詳しく知りたい方はご自身で調べてみてください。

アート思考とは

アーティスト(芸術家)が持つ創造性に着目し、アートを生み出す過程で用いる特有の認知行動のことだそうです。
もう少し噛みくだくと、「自分」の感情や経験を出発点とし、そこから抽象化して作品を作るという方法です。

デザイン思考とは

デザイナーかデザイン行う過程で用いる特有の認知行動のことだそうです。
もう少し噛みくだくと、「他人」の感情や共感を出発点とし、問題解決をゴールとする方法です。

ロジカル思考とは

物事を結論と根拠に分けて、その論理的な繋がりを捉えながらものごとを理解することだそうです。
もう少し噛みくだくと、「データ」が出発点で、問題解決がゴールとしていることが多い印象を受けます。

個人的な感覚の話ではありますが、ロジカル思考→デザイン思考→アート思考になるにしたがって、よりコンセプチュアルになっていく傾向がある気がします。

では職人や作家(特に木工)がやりがちな思考法は?

おそらく、これら3つのどれでもないと思います。
アート思考っぽいけど別物であることが多いのではないでしょうか?
個人的な感覚だけで話しますが、「自分」や「他人」が出発点ではなく、「技術」や「フォルム」、「テクスチャ」のようなものが出発点になっていることが多い気がします。
「作る」が前提としてあり、コンセプトよりもテクニカルなものが衝動としてある。
そんなイメージです。
これが前述した英霊の呪いの影響のような気もします。
この作り手の思考法を仮に「クラフト思考」と呼ぶことにします。

クラフト思考の問題点

まず前提として、クラフト思考が悪いとは全く思いません。
クラフト思考で素晴らしい作品を作っている人もたくさんいます。

もう一度クラフト思考を整理すると

  • 同業者はインプットが似通っている

  • アイデアの発想プロセスとして「技術」「テクスチャ」「フォルム」が出発点になりがちである

結果として「既視感のあるものを作る作家がたくさん出てくる」という仮説です。
そして、実際にクラフトフェアを見に行くと似たようなものを作っている作家さんが多く見受けられます。

この時に発生する問題は作家の売上は知名度に依るということです。
似たような作品が並んでいるのであれば、当然ながら知名度のある作家さんの方が売れます。
有名な作家さんの存在を知らないお客さんでも、ブースの前の人だかりやレジ待ちの行列などを見れば「人気の人なんだ」とわかるものです。
取引先(バイヤーやギャラリー、ショップなどとのつながり)があればいいですが、それもないときついです。

そして僕は知名度も取引先もない「よわよわ作家」なので売上もなかなか厳しいのです。

僕はクラフト思考からの脱却によって競合との差別化を図ろうとしました。

クラフト思考からの脱却方法

前述したことをもう一度言いますが、別の業界で言われていることを転用するというのが一つの方法だと思います。

ちなみに僕はこの転用という手法を取る以前はスマホゲームで言うところのガチャに近いことをしていた気がします。
一発でいいアイデアを引き当てるのではなく、数撃ちゃ当たると言う感じ。
今でももちろん試行回数を増やすということはとても大事だと思っています。
そしておそらく、これはみんな当たり前にやっていることのような気もします。
とても当たり前のことなのでものづくりをしている人は誰も言葉にしてないし、noteにも当然書かない。

とりあえず「なんかいいアイデア浮かばないかなー」と
クラフト思考+ガチャ(確率)
みたいな感覚でラフなスケッチを筆が赴くままに描いたりしたこともあります。
ただ、この方法は効率悪いなというのが僕の意見です。

仕事でやってるんだから、せめて乱数調整してガチャでレアを引く確率上げた方が良くない?

と気づいたのです。

ではどうやって乱数調整をするのか。
とりあえず、僕はアイデアの出し方というものをふわっとしか理解していなかったので、本を買って読んでみました。
効率の良いアイデアの出し方ってあるのかな?と。

そもそも、アイデアってどうやって作るの?

いわゆる名著と呼ばれるやつを読んでみました。
「アイデアのつくり方」 ジェームス・W・ヤング

ざっくりと僕なりに要約すると

新しいアイデアとは

  • 既存の要素の組み合わせである

  • 関連性を見つける才能に依存している

とのことです。
僕みたいな才能のない人はいきなり振り落とされてしまいました。

では具体的にどのようなプロセスを経ていくのでしょうか。

  1. 資料を収集する

  2. 咀嚼する

  3. 一旦、放棄する

  4. ひらめく

  5. ブラッシュアップする

とのことです。(↑小尾口超訳)
「いや、ひらめくってところをもう少し噛み砕いて欲しいのだが・・・」
と思ったのですが、よく考えるとこれはいわゆるブレインストーミングというやつのことでは?
と思いました。

どうやらブレインストーミングやKJ法というのが登場したのは、この書籍の後のことのようです。

つまり、僕なりの解釈ですがおそらくこの書籍が出た当時に比べると、ブレストやKJ法などの手法の登場により、才能への依存度は多少マシになっているのではないかと想像します。
ブレストやKJ法がわからないという方はご自身で調べてみてください。
ちょっと僕もいちいち説明するのがめんどくさくなってきました。

ちなみにこの本のページ数は60ページくらいで文字も大きいのですぐに読めてしまいます。もし気になる方がいたら読んでみてください。

前書きが長くなったので・・・

一旦この記事はここまでにしておきます。
イントロダクションということでここまでが前編です。
僕が本当に書きたかった内容はここからさらに踏み込んだ内容です。
具体的に僕が実践しているアイデアの発想方法や思考プロセスの紹介をしたかったのです。
しかし、ここまでの前書きが非常に長くなってしまいました。
なので、具体的な話は次のnoteの記事でまとめてあります。
なんとボリューム満点で1万5千文字もあります。
今僕が持っているものはほとんど出し切ったような気がします。
さらに深い内容に興味がある方はぜひ次の記事を読んでもらえると嬉しいです。
一部有料部分もありますが無料で読める部分も十分おもしろいと思いますのでよかったらのぞいてみてください。
             ↓後編はこちら↓


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