見出し画像

メガネ店のオンライン視力測定で体験! リアル店舗のDX【コロナ禍見聞録】

メガネ店に見たリアル店舗のDX

先日、メガネを新調するために、メガネ店に出掛けた。
本メガネ店の体験はリアル店舗のデジタルトランスフォーメーション(DX)のあり方について考えさせるものであった。
路面店のお店は、新型コロナウイルス対策でドアがすべて開け放たれており、2名の店員の方が接客を行っていた。

①接客を受けながらフレームを選び、次はレンズ作りのための視力測定ということになり、ソファーに案内された。

②視力測定を待つ間に、LINEの公式アカウントにお友達登録を行い、名前や住所等をスマホで入力する。

③そして、その公式アカウントのメニューの中にある会員証QRコードを店員のタブレットで読み取る。

④その後に案内されたのは、スーツ姿の男性が映った大きなビジョンの前だった。新型コロナウイルスへの対応として、その男性がオンラインでつながれた視力測定器を活用してリモートで視力測定を行ってくれることだった。リモートでの視力測定は非常にスムーズで快適なものであった。この日は、会計をして帰宅。

⑤数日後、LINEにメガネ完成の連絡があった。

⑥新調したメガネはなかなか良い掛け心地だったので、色違いを購入しようと思い立ち、LINEのメニューからECサイトを開くと、既に私の視力検査情報や住所情報は入力済で、購入までにかかった時間はわずか1分ほどだった。

画像4

フレームを選ぶ以降の工程が心地良くデジタル化をされているように感じた買い物だった。
現在、様々な業種のリアル店舗でデジタル化=デジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいるが、この買い物の経験はリアル店舗のDXのあり方に示唆を与えるものであるように思える。

リアル店舗での買い物のあり方を単純化すると、『「商品(モノ)」を「接客(ナレッジ)」で顧客に「購入(購買行動)」してもらう』ということであるといえる。
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」(『デジタルトランスフォーメーションを推進するための ガイドライン』経済産業省)と定義される。このことから、リアル店舗のDXを進めることは、「商品(モノ)」「接客(ナレッジ)」「購入(購買行動)」をデジタル化することを通して、顧客に新たな購買体験を提供し、競争力のある店舗を創り上げていくことと言い換えることができる。

モノ、ナレッジ、購買行動のデジタル化

リアル店舗のDXを進めていくにあたっては、「商品(モノ)のデジタル化」⇒「接客(ナレッジ)のデジタル化」⇒「購入(購買行動)のデジタル化」を一貫して進める必要がある

画像4

【商品(モノ)のデジタル化】
顧客がどの商品(モノ)を何個購入したのかがデジタル上ですぐに把握できる状態にしておくことで、「接客(ナレッジ)のデジタル化」「購入(購買行動)のデジタル化」が進む土台を築くこと。(Ex.商品にバーコードやRFIDを取り付ける・商品棚から商品の減り具合をカメラ等のセンサー技術で捉える etc)

【接客(ナレッジ)のデジタル化】
店員(店舗)が顧客に購買を促す活動(顧客接点)をデジタルで代替えすることで、接点での顧客データの取得と活用が容易になり、「購入(購買行動)のデジタル化」を促しやすくなること。(Ex.ポイントカードでの購買データの取得や店内カメラによる顧客の購買行動データの取得を行った上で、そのデータの分析結果からスマートレジカートにレコメンドを行う etc)

【購入(購買行動)のデジタル化】
顧客が商品(モノ)を購入する過程がデジタル技術の活用により、効率化やエンターテイメント化が進むこと。(Ex.キャッシュレス化によるレジ待ち時間の削減・スマートカートレジカートによる商品選択の充実 etc)

しかし、この3要素を一貫してDXを進めているリアル店舗は少ない。

食品スーパーが陥っている罠

例えば、近年注目されている、レジレス化・キャッシュレス化というDXを行おうとしている食品スーパーが陥っているDXの罠を例に取ってみよう。

「キャッシュレス化の進展によるレジ待ち時間の削減」

「購入(購買行動)のデジタル化」に向けて、多くの食品スーパーが行っているのは、キャッシュレスのセルフレジという機器の導入である。
しかし、単に機器を導入するだけでは、目指すべき「購入(購買行動)のデジタル化」は進んでいかない。
セルフレジの利用者が伸びないのはなぜなのか。それは「商品(モノ)のデジタル化」「接客(ナレッジ)のデジタル化」が十分に進んでおらず、顧客がキャッシュレスのセルフレジを利用したいと思わないからである。
セルフレジでは顧客自身がバーコードを読み取って会計を行う。そのような中、バーコードがついていない野菜などがあった場合、タッチパネルで該当商品を選んで会計しなければならなかったりして非常に面倒な思いをする。これは「商品(モノ)のデジタル化」が十分に進んでいない証左である。
セルフレジで会計をする顧客は、これまでは店員が行っていたレジ業務を代行してもらっているといえるだろう。顧客のポイントカード等を活用した「接客(ナレッジ)のデジタル化」を行えば、セルフレジを活用されている顧客の特定は容易である。しかし、多くの店舗はそのような顧客に対し、ポイントや金券の配布等の十分なインセンティブを与えていない。そのため、顧客に進んでキャッシュレスのセルフレジを活用しようとする意欲が高まらないのである。

「商品(モノ)のデジタル化」「接客(ナレッジ)のデジタル化」が進まなければ、「購入(購買行動)のデジタル化」は進行しない。

メガネ店が目指していたこととは

メガネ店での体験に戻してみる。
新型コロナウイルス対策での顧客と従業員の非接触化、従業員満足度のアップ等を企図していることは間違いないが、本体験の中でこのメガネ店が目指したいDXは⑥のオンラインサイトでの購入を促すことである。

画像4

つまり、顧客の購入(購買行動)を店舗からオンラインサイトへとデジタル化したいと考えている。
②~④で以下が行われていることが分かるであろう。

【「商品(モノ)のデジタル化」】
”視力”というメガネを買うのに必須の情報をデジタルデータ化している。

【「接客(ナレッジ)のデジタル化」】
顧客に関する情報をデジタル化するために誘導している

メガネ店での体験は、「商品(モノ)のデジタル化」⇒「接客(ナレッジ)のデジタル化」⇒「購入(購買行動)のデジタル化」というリアル店舗のDXが見事に実現されているものであった。

小山さん

小山 貢弘
2007年、電通テック入社。様々な業種の小売・流通業のプロモーション・マーケティング業務に従事。小売マーケティングのスペシャリストとして外部講師なども担当。+tech labo主任研究員として「ニューリテール」「感覚化」をキーワードに研究を重ねる。

***************************
今後もリテールに関する様々な話題をご提供していきます。
リテールに関するご相談も各種お問い合わせください。
https://plustechlabo.jp/contact/