見出し画像

THE BROOKLYN FOLLIES ポール・オースター しぶとい男は救われる

画像1

主人公の男は60歳を目前にして癌になり仕事を辞し、こじれにこじれた家庭からも飛び出して、ひとり故郷のブルックリンを最期の住処に定めます。

これは陰惨な話ではなく、かなり笑える面白い小説です。
全てを失った自分を持て余し、自身を無意味で無価値な存在とジャッジした男が、かつての故郷を彷徨いながら、「今」と「これから」を掴むお話です。

「ブルックリン・フォリーズ」の、FOLLIES は「愚行」という意味。

ポールオースターは割とこの「愚行」が好きなようで、他の小説やエッセイでもちょろちょろ出てきます。主人公は冒頭、ひとりブルックリンにて若き日の自分を振り返り、「人類愚行の書」を日々書き連ねることだけを毎日の目的としますが、この時点でだいぶ面白いです。

登場人物の自称・元画商が、どのようにして画商一本で食い繋いでいたかという辺りも、芸術ビジネスの実世界って感じで笑えます。多感な若い頃のポールオースターが、金を稼ぐという行為そのものを毛嫌いし、ビジネス社会の一切から脱落して生きて行きたいと願ったのも頷けます。(金持ちになりたい、のではなく、脱落、というのが彼らしいですが)

笑える笑えるばっかり書いてますが、ふむふむと考え込んでしまう対話や魅力的な登場人物が全編に散りばめられていて、グイグイ引っ張って最後まで読ませてくれるのはさすがです。

この本に限らずポールオースターの小説は、次から次へと展開する事象の合間に深い洞察が織り込まれ、基本的に読み出したら止まらない本ばかりです。どんでん返しや物語の展開・差し挟みもとても巧みです。

ままにならない自分自身に散々傷ついてきた主人公は、それでも出来得る限り誠実に相手に自分を差し出そうとします。
ラストの解釈は人それぞれでしょうけれど、一冊を通して温かくて軽やかな小説となっております。

かなり落ち込んでる時にこの小説をたまたま読んでハマって、夢中で読み終える頃にはすっかり自分の鬱屈はどうでもよくなっていたので、もしよかったら是非お暇な折に図書館などでどうぞ。図書館なら無料だよ。

柴田元幸さんの訳も、流れを損なわない読みやすい文章で、とてもありがたかったです。








この記事が参加している募集

#推薦図書

42,493件

ご覧いただき、ありがとうございます。気に入っていただけたらサポートお願いします!直接お礼させていただきます (*^_^*)