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クラウンを通して、一番輝く自分に出会った話

※この記事は、2019年に参加したフランスでのクラウンワークショップの終了時に書かれたものです。

フランスでの、2週間のゴーリエWSが終了した。

フィリップ・ゴーリエは、シアタークラウン、フレンチクラウンの権威。
日本でも何度かワークショップしてるし、彼の学校に多くの日本人も通っているから、噂は聞いていた。

その多くは「怖い」

クラウンのワークは、主にお客さん(他の受講者)の前で行う。
与えられたテーマを使って、お客さんを笑わせることを目指す(この辺はかなり深いし、誤解しやすいので、よく知りたい人はWSに来てください!)

そのやることなすことに対して、フィリップはひたすら罵詈雑言を浴びせていく。
「ひどい」「つまらない」「0点」…
これを受けてひどく落ち込んで、ダメージを受けて、もう嫌になってしまう生徒もたくさんいたという。

だけど、実際に受けてみて、僕が受けたゴーリエの印象は「優しくて面白い」だった。

確かに罵詈雑言は言う。
だけど、一つ一つがユーモアに溢れていて、面白いのだ。
(例)「遺伝子をどこかに忘れてきたんじゃないか?」「ワニ園に放り込んでやりたい」「息子の誕生日にクラウンとして彼が来たらどう思う」…など

それに、差別や偏見も凄い(笑)
中国人のことはボロクソ言う(「中国人は全員人殺しが好きだ」とか)し、イスラム教徒の人に「友達にテロリストがいるだろ」って言うし、夫婦で来てる参加者の奥さん側に「旦那といつセックスしたんだ?」って聞くし、
今日本でやったらコンプラに引っかかりまくることをめちゃくちゃやる(笑)

確かに初日二日目辺りの空気は凍りついていた。
でも、段々生徒達も慣れてきたのか、笑って聞き流すようになってきたし、
最終日には皆ネタにしまくって遊んでいた(笑)

彼は口は悪いし、ハラスメントだらけの人だけど、決して生徒の自由を抑圧することはなかった。
生徒を不自由にしてるポイントを見つけ、そこを広げようと多種多様なエクササイズを提供している様は、やはり何人も生徒を送り出している一流の講師の業だった。

その象徴とも言える、凄く良い体験を最終的にすることが出来たので、最後にそれをシェアして終わろうと思う。



最終日、僕らは「とある2人が久しぶりに出会う」というテーマのインプロをやることになった。
「ペアを見つけておけ」と前々日に言われ、どうしようかと思っていたら、中国人のシャーリンが声をかけてきた。

「私と一緒にやってほしい」

彼女は香港で女優をやっていて、今回のWSはその修行のために参加したのだという。
1週間以上やってきて、彼女はまだ自分のブロックが外れてない自覚があり、悩んでいた。

一方僕は10年間やってきたインプロの成果が遺憾なく発揮され、毎回面白いモーメントを作ることが出来ていた(この辺は自画自賛だけど、ホントにそうだったんだから仕方ない(笑))
彼女はそんな僕を見て「おしょうとなら私は何か得られる気がするの」と言ってきてくれたのだ。
僕は迷わずオッケーした。

発表前日。
WS後に打ち合わせをしようと言われたが、僕は断った。
彼女は準備しないと不安らしいのだが、彼女のためにも、それはやめた方が良いと思ったのだ。
「舞台上で会おう」とだけ言って、翌日の発表に備えてすぐに帰った。

発表当日。
順番が回ってきて、僕は彼女と舞台袖に入った。
「日本語でやってみない?その方がウケそうだから」と彼女は言ってきたが、
「君がやりたいならやるけど、そうしないといけないって思ったのならやめた方がいい」と僕は返した。
「今までの人生の中で一番怖い」と彼女は言った。
「大丈夫だよ」と僕は彼女の背中をさすった。
「私泣きそう」と彼女は涙を見せながら僕に言ってきた。
「泣きたかったら舞台上で泣きなよ。それが今君が感じてることなんだから」と僕は最後に伝えた。

そして、音楽が鳴り、僕らは舞台上に出た。
何も考えずに出たおかげで、お客さんのことが良く見え、クスクス笑いも起きてる。
いいぞいいぞ、と思ったのだが、彼女が大分先走って日本語で喋り始めた。
お客さんの反応が止んだ。
あ、これはやめた方がいいな、と思ったのだが、彼女はお客さんの反応を受け取れずに、喋り続けた。
違うアイデアを出すことも一瞬よぎったのだが、僕は彼女を見捨てたくなかったので、日本語で彼女とコミュニケーションを取った。
お客さんの反応は段々と無くなり、ゴーリエが太鼓を鳴らした。

「彼は悪くないが、お前はくそつまらない人形のようだ」とゴーリエの厳しい言葉が飛ぶ。
人形のよう、というのは言い得て妙だな、と僕はその時思った。

後から彼女に聞いたのだが、香港で俳優に求められる演技は「正しいことをやること」らしい。
監督や演出の指示に従い、言われた通りにやる。
何か自分のアイデアを持ち込もうとすると「余計なことするな」と怒られるそうだ。
ああ、この体験が彼女をこうしてしまったのだな、と僕は悲しくなった。

話を戻そう。
厳しい言葉をかけられたシャーリンは、止めていた涙が溢れてきた。
それを見て僕は彼女の近くに行き、背中をさすった。

それを見たゴーリエは「悲しいのか?」と聞いた。
彼女が「泣きそう」と答えると、ゴーリエは「じゃあ今泣け!」と答えた。

それを聞いて僕は「お!」と思った!
ゴーリエが僕と同じことを言ってる!と、思わず嬉しくなったのだ。

彼女は泣いた。
ゴーリエは「面白く泣いてみろ」と言い、彼女はそれに答えた。
お客さんがそれを見て笑った。
これはチャンスと思って、僕は彼女を見た。

「彼女を叩け」とゴーリエが言う。
僕が彼女を叩き、彼女はお客さんを見た。
お客さんは笑った。
もう一度叩くと、更にお客さんはどかんと笑った。
あっという間に爆笑の渦の中に入った。

彼女が顔を隠そうとする。
それを僕が咎めてお客さんを向かせる。
爆笑。

もう一度彼女を叩こうとする。
しかし彼女がよける。
爆笑。

彼女が仕返しに僕を叩く。
「Fooooo‼︎‼︎‼︎」と大歓声!!

今まで体験したことのない反応をお客さんから得ることが出来た!!!

終わった後、ゴーリエは「彼女が泣き始めてから、我々はあなたのことが好きになった。ありがとう」と言った。
僕らは互いにハグをし、それにまたお客さんは大歓声をくれた。

クラウンは、確かに怖い。
だけど、その経験を通して、本当に舞台上で輝く自分を見つけることが出来る。
僕は幸運にも、その場に居合わせることが出来た。
一緒にやってくれたシャーリンに感謝したい。
ありがとう。

そして、この体験をさせてくれたゴーリエ。ありがとう。
最後に彼は僕に「君はいい先生になる」と言ってくれた。
その言葉は、僕にとって一生の宝物だ。

最後に、このワークショップを通じて出会った仲間達。
彼らの愛と勇気があったから、こんなに素晴らしい2週間にすることが出来た。
また世界のどこかで出会える日を心待ちにして。
ありがとう。

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