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2ヶ月のカナダでのインプロ修行を終えて

2ヶ月にも及ぶ長旅が終わりを告げた。
キース・ジョンストンの愛弟子であり、世界的インプロバイザーでもあるショーン・キンリーの下で、泊まり込みでのインプロ修行。
2023年9月29日に最後のクラスを終え、僕らは修了証を受け取った。
その修了証にはこう書いてある。

インプロは目的地ではない。一生をかけた学び、行動、好奇心に満ちた探究のプロセスなのだ。

つまり、僕らの旅は終わっていない。終わらない物語のように、1章が終わったらまた次の章へ、そのまた次への進んでいく。この長旅もまた、次にやってくる新しい旅の始まりにつながるのだろう。

ルースムースシアターのクラスにて、僕とショーン・キンリー

これまで色んな国を訪れて、ワークショップを受けたり、フェスティバルに参加したり、パフォーマンスをやったりと、飛び飛びで活動してきたが、こんなにも長い期間日本を離れたのは初めてだった。
日本語が使えない、最愛の妻と会えないストレスに悩まされたこともあったが、毎日新しい発見と挑戦があり、自分のこれまでのインプロバイザーとしての在り方と技術(ショーンは Spirits & Technique と言っていた)が着実に更新されていくのを感じた。
※具体的なことは以下のブログに書いてあるので、そちらを参照。

2ヶ月間の海外修行を経て思ったのは、やはり僕は日本が好きだと言うことだ。
皆とのインプロ談義の中でも「日本のインプロは/演劇は」という話を必ず出すし、何か新しいことを学んだら「これは日本で伝えなければ…」と常に考えた。
一緒にクラスを受けていた中国人のアナが日本食品で納豆を買ってきてくれたら嬉しかったし、黒澤明や宮崎駿、おすすめのJ-POPについて紹介するのも好きだった。
日本にいる時は色んなことにやるせなさを覚えるが、それは同時に期待と好意の表れでもある。好きだから、期待しているから、不満を持ったり、文句を言いたくなる。離れてみると気付くのは、まるで親のありがたみのようだ。

ルースムースシアターにて、最後のショーを終えた後

たくさん稽古をして、ショーに立ち、皆に愛され、受け入れられていく度に、日本人であることに誇りを感じ、僕が僕であることに自信を持てるようになっていった。
13年間積み重ねてきたインプロ人生、32年間の自分の人生で積み重ねてきたものは、もっと色んな人に見てもらって、愛してもらってもいいのかもしれない。
そう思って僕は、とあるショーを思い付いた。言葉を使えない一人の日本人クラウンによるソロインプロショーだ。

「Words Begger」というショー。実際にカルガリーで披露した

異国の国で、言葉をそこまで使えない。まるで自分を象徴したような存在。
お客さんからその場でいくつか言葉を教わり、そこから想像と創造を頼りに、即興の物語を作っていく。使えるのはその場で教わった言葉と「I」「LOVE」「YOU」のみ。
30分の実験的パフォーマンスは素晴らしいコネクションと愛と興奮に満ちていた。そして多くの人から「君は世界を周るべきだ」と称賛された。憧れのインプロバイザーであったスティーブとカティにも「何度もステージに上がりたくなった」「面白かったし、感動したし、素晴らしかった」と言われた。
ショーンは「良いショーだったよ」と一言だけ言い、それから大量のノートをくれた。なぜなら先述したように、インプロには終わりがなく、プロセスだからだ。ショーンはインプロバイザーの先輩として、先生として、常に僕の一歩先を示してくれた。

バンクーバーのTightrope Theatreにて、マエストロのショー直後

バンクーバーに3日間だけ飛んだ時は、インプロ友達のりなと再会した。彼女は今、Tightrope Theatreでパフォーマー兼ディレクターとして活動している。異国の地で生活しながら、第一線でインプロ事業を行う数少ない日本人である彼女の姿にもとてもインスパイアされた。

スクールの皆と。カナダ、中国、オランダ、インド、日本。国際的な仲間たち

スクールの皆は国際色豊かで、各国のインプロ事情を話してくれたし、ショーンは60カ国も巡った鉄人だ。その皆が僕のインプロを褒めてくれる。Word Class Improviser(世界的インプロバイザー)とも冗談半分で言われたのだが、冗談でも嬉しかった。
ショーンは「日本人を代表して世界で活躍するといい。君が道を切り開くんだ」と僕の背中を押してくれた。海外に行くことを躊躇する日本人はとても多いが、僕は日本には素晴らしいインプロバイザーはたくさんいると思う。僕が世界を巡ることでその勇気づけになるのなら幸いだ(実際、僕の周りの若いプレイヤーの何人かは、海外への興味を持ってくれている)

もうこんなに長く海外に行くことは早々ないだろうが、ここから積極的に海外に向けて活動をしていこうと思う。自分を通して、日本を知ってもらい、日本にもたくさんのインプロバイザーが来てくれればいい、そしていずれは日本でもフェスティバルを開きたい…夢のレベルがどんどんと広がっていく。でも制限は設けない。人生はインプロだ。今いるところからまた次へ、また次へ、行けるところまで行くのさ。物語は終わらせない限りは終わらないのだから。

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