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古代エジプトの神殿に描かれたUFOの秘密 - 都市伝説を考古学者が斬る!〜 「河江肖剰の古代エジプト」より

はじめに

エジプトの古代遺跡には私たちを魅了させる数々の謎が秘められています。そうした謎の一つとして、“UFO”や“宇宙人”がピラミッド建造に関与したのではないか、などといった話をみなさんは聞いたことがあるでしょうか?

いわゆる“オカルト”と呼ばれるような話ですが、実際のところ、そうした話の真実はどのようなものなのでしょうか?この動画では、エジプト考古学者の河江肖剰先生の解説をもとに、その謎に迫っていきます。

セティ1世葬祭殿

エジプトのアビドスにセティ1世葬祭殿と呼ばれる神殿があります。こちらの神殿は「古代都市テーベとその墓地遺跡」の構成資産の1つとして、エジプトの世界遺産にも登録されている美しい神殿です。

セティ1世葬祭殿

ここには7つの至聖所があり、この神殿で奉られている様々な神々に対する礼拝の場として古代に人々に使用されていました。保存状態がとても良好なこの神殿は、セティ1世の時代、つまり約3200年前に建てられたといいます。

しかし、そんな立派な神殿に1つのオカルト話があります。
実はこの場所には、“UFO”が描かれたレリーフがあると言われているのです。それは本当の話なのでしょうか?

“UFO”に見えなくもない?

ヒエログリフが刻んだもの

結論から言えば、そこに“UFO”が描かれたレリーフは存在しません。
確かに一見すると“UFO”に見えるレリーフが存在しますが、これは実際には古代エジプト語、ヒエログリフが風化して重なり合った結果、そのように見えるだけだと河江先生は説明しています。

具体的に言うとそのヒエログリフには、セティ1世とラメセス2世の名前が記されていました。まずセティ1世の名前の一部として、「力強き雄牛」「9つの弓矢の民を追い払う者」「エジプトの保護者」を意味するヒエログリフが刻まれていました。

セティ1世の名前を示すヒエログリフ

その後この神殿の後継者であるラメセス2世は、自身が新たにファラオになった証として、セティ1世の名前をモルタルで塗りつぶし、その上に自分の名前を上書きしたのです。

ラメセス2世の名前を示すヒエログリフ

古代エジプトの思想から産まれた偶然

一見するとこの行為は自己顕示欲のためのように見えますが、そこには古代エジプトのある思想が関係していました。すなわち新たにファラオになった自分自身がもう一度再生・再創造するというような意味で名前を書き直すという、古代エジプト特有の思想が込められていたのです。

そのためにセティ1世の名前の上にラメセス2世名前が刻まれることになったのですが、これが時間とともにモルタルで埋めた部分が剥がれ、セティ1世とラメセス2世のヒエログリフが風化して重なり合い、たまたま“UFO”のようにも見える形になってしまったのです。そのためこれは全くの偶然の産物であり、“UFO”や宇宙人が関与したわけでは一切ないのです。

2つのヒエログリフが重なり合って産まれた“UFO”

さいごに

こうした謎解きと真実を探求する過程は、エジプト考古学の醍醐味のひとつとも言えます。未知の文化や歴史を紐解くことはしばしば誤解や想像を生み出しますが、そういった事柄には科学的な視点から考古学的な証拠を用いて、しっかりと誤解を解き明かしていくことが重要なことだと言えるでしょう。

今回紹介した内容について、より詳しい情報が知りたい方は、ぜひYouTube動画「古代エジプトの壁画にUFO?都市伝説を考古学者が解説!」をご覧ください。河江肖剰先生の解説により、今回の記事の内容をさらに深めることができるでしょう。

河江 肖剰(かわえ ゆきのり)
エジプト考古学者/名古屋大学高等研究院准教授/米ナショナルジオグラフィック協会のエクスプローラー。19歳でエジプトに渡り、1992年から2008年までカイロ在住。カイロ・アメリカン大学エジプト学科を卒業後、名古屋大学で歴史学の博士号を取得。ピラミッド研究の第一人者であるアメリカ人考古学者マーク・レーナー博士のチームに参画し、ギザの発掘調査に10年以上従事。2016年ナショナルジオグラフィック協会のエマージング・エクスプローラーに選出。ピラミッドの3D計測など、最新技術を用いた斬新なアプローチでエジプト文明の研究調査に取り組んでいる。


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