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ヨーヨー

明日は納涼祭、来月には敬老の日という高齢者施設にとっては、大きなイベントを控えている。

しかし、長年コロナ渦だった。久しくイベントらしきイベントはやっていなかった。さらには、この8月からは新体制。もっと言えばこの施設の人間関係もここ2~3年はガタガタだったという。まあ、2月に入って来たばかりの私にもそれは見て分かる。

そこで介護職員さんたちを中心に企画される納涼祭は今後の手始めということでシンプルに終わらせることになった。例えば、皆でスイカを食べて、屋上で花火とか。

その後は職員の懇親会。

ところが、介護職員さんたちの中にはお祭りの飾り付けを熱心にやる人がいる。射的のセットを手作りしたり、少しでも楽しんで貰おうという魂胆だ。

私も何か一つしたいと思って、半月ほど前にヨーヨーセットを買った。少しでも楽しんで貰いたくて。

しかし、あっと言う間に日にちが立って、気が付けばお祭りは明日。大変だ!と一人で昼休みにちょちょちょいのちょい!と、ヨーヨーを作ろうと思った。もちろん初めての体験だったが簡単だろうと思ってデスクに広げて作り出した。

が、一個目を膨らませて捩じり、クリップで止めるだけの段階になって、水入りの風船がロケットのように飛んで行った。
2個目は自分の顔面にぶち当たり、『シャンプーしましたか?』というくらいびしょ濡れになった。

このあたりで入浴場からバスタオルを3枚くらい取って来て敷き詰めて作業したのだが、他のナースが昼食から帰って来た時には、医務室が一面水びたし。私は濡れネズミのような姿になり、一人で「きええええいっ!」と怒っていた。

お祭りなんて興味がないし、そんなものは介護職員がやれば良い!と言っていたナース二人は、その光景を見てしばし立ち尽くしたが、『て、手伝わせて下さい。』と参加して来た。

もういい!一人でやろうと決めたんだ!やる気がないやつはいい!と意固地になっていたが、二人の協力であっという間に2~3個出来た。

最初のうちは三人とも失敗して風船がしぼむのと同時に出て来る水鉄砲で辺り一面濡らした。
一人は私に目つぶしを食らわせて来たので「き、きさまあああ!」となった私。
しかし、その人は震えながら『ごめんごめん!すみません!』と謝っていたが、途中で爆笑し出した。

この人が本気で笑う顔、初めて見たなあと内心嬉しかった。

それから苦節2時間。やらなければならない仕事は山ほどあるし、介護職員たちも「あの、看護師さん!」と指示を貰いにやって来たのだが、水びたしの医務室と、滝のように汗をかいてヨーヨーを量産している私たちを観て吹き出していた。

途中から、先ほど爆笑していたナースがコツを掴んで一人で簡単に作れるようになっていた。もう一人はクリップ止めのコツを掴んで量産していた。

私はというと、最後にゴムをくくるだけという役立たずぶり。

施設長から仕事のことで質問の電話がかかって来たので、それに答えたあと、『ボス!医務課に来て!ヨーヨーがいっぱい出来たから!』と叫ぶ。

見に来たボスも絶句していた。

が、『医務室の雰囲気もずいぶん変わったね。早いな。』と笑っていた。

午前中、他のナースにイライラして怒っていた私。『もう絶対リーダーやらせねえ!』と怒っていたのをボスも知っているが、その同じ口で私が言うことには。

『ボス!一人では何もできません!WさんもAさんも素晴らしい才能の持ち主です。』と敬礼すると良い笑顔を貰った。

『うん。二人とも履歴書に的屋って書いてあった。』と嘘つくボス。爆笑する二人。

ほんと何もできない自分で情けないのだけど、私がもしも何でもできる人だったら、きっとナース陣はお祭りの準備に参加しなかっただろう。

おかげでその時間を巻き返すのが大変な一日だったけど。

利用者さんや職員のお子さんが楽しんでくれるといいなあ。

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