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認知症の人でも、実はできることがたくさんある

高齢化が進んでいく日本社会。
認知症はもう遠い存在ではなくなってきています。


「認知症の人は何もできない・わからない」、「認知症の人と向き合うのはとても大変」と思っていませんか?

実はそうではないんです!!

認知症の方でも、自分のしたいことを主体的になって行ったり、忘れてしまった手順も少しやり方を教わることで思い出したりと、皆さんの想像以上に様々なことができるんです!

今回わたしたちはスマイルサポート・警弥郷倶楽部(福岡市南区)に行って、認知症の人たちとワークショップをしました。

このnoteを通じて、認知症の人たちの新しい一面を知ってもらえたらうれしいです。

<自己紹介>

九州大学 芸術工学部 未来構想デザインコース2年の3人

末松
「認知症の人との交流経験はあるが、何ができて何ができないかということは詳しく知らないです。高齢者福祉に関心があり実習に参加しました。」
田邊
「親の仕事を見ていて、中学生ぐらいの頃から福祉に興味を持ちました。実際に現場を見せていただく機会がほしいと感じてこの授業を選択しました。」
三好
「認知症の人は身近にいないけど福祉に興味があります。認知症の人と直接会える機会がほしくて実習に参加しました。」


ワークショップをするきっかけ

このワークショップをする前に、わたしたちは授業の一環で高齢者福祉施設を訪れました。

スタッフさんに話を伺ったところ、

「コロナ禍で今までしていた活動ができなくなって、みんな元気がなくなってしまって……ぜひ若い人たちに利用者の方が元気になるような新しい活動を考えてもらいたいと思っています」

とのこと。


新しい活動について考えていくうちに

「でも、元気になるって具体的にどうなること?」

という疑問や

「せっかくなら認知症の人とコミュニケーションがとりたいよね」

という希望が出てきました。

そこで先生やメンバー全員でいろいろと考えた結果、

認知症の人たちが自分の能力や個性を発揮できるワークショップをしよう!

ということになったのです。

ワークショップの準備

ワークショップで大事にしたいこと

ワークショップという形にすると決めたとき、一番大事にしようと思ったのが「認知症の人たちに何かを強制しないようにする」ということです。

ワークショップのお題通りにする人や、自由に遊んだり話したりする人、全く何もしない人。それぞれ反応が違うということ自体が、その人の能力・個性が発揮されているということだと考えました。


お題決め

……というように活動の”根っこ”はすぐ決まったのですが、ワークショップをするときに一番大事な”お題”を作るのがとっても大変でした。

認知症の人たちに複雑なルールがあるものや、新しいゲームをしてもらうのは難しいです。だから、小さい頃によく遊んだもので、かつ訪問する施設で普段していないことを必死で考えた結果……

折り紙をすることに決定しました!


「小さいときにした遊びをすることで今まで忘れていた折り紙の折り方や小さい頃の記憶を思い出してもらえたら最高だよね!」


ワークショップでの様子

「こんにちは!今日は皆さんと折り紙をしようと思って、いろんな種類の折り紙を持ってきました!!好きな折り紙を選んでください」

ワークショップの始まりは自己紹介から!

そのあとに、持ってきたさまざまな種類の折り紙から好きなものを参加者の方に選んでもらいました。


これは、

「自分で好きな折り紙を選ぶことで、ワークショップに主体的に取り組んでもらえたらいいよね」

というアイデアから!

参加者の皆さんからしたら私たちは初めて会う人で、そのうえ孫と同じくらい年が離れているはずです。急にワークショップを始めてもついていけないかもしれません。

ワークショップの流れをつかむきっかけになるか……?


アイデアはうまくいった?

狙い通り、皆さんに主体的になってもらえるのか……
緊張のスタートでしたが、折り紙をテーブルに広げるとみなさん早速折り紙を手に取り始めました!

千代紙を選ぶ人やホイル折り紙を選ぶ人、手に取るものは人それぞれ。参加者の皆さんの個性がさっそく表れています!


「皆さん、折り紙は選びましたか~?……大丈夫みたいですね。じゃあさっそく折り紙をしていきましょう!まずは皆さんで、”やっこさん”を折りたいんですけど、どなたか折り方をご存じの方はいますか?」


ワークショップを始める前に考えていた通り、どれだけ折ることができるか、折りたいという意欲があるかも人それぞれです。折りたい人は折り紙をどんどん折って、そうでない人とはトントン相撲をしたり、お話をしたりしました。

トントン相撲
トントン相撲をする参加者さん

ただ、参加者さんの中にはなかなか折り紙を手に取らず、話しかけても反応を返してくれないという人もいました。

そのような方もいらっしゃること、そう言った場合は無理にさせようとはせず、参加者の方の意思を尊重しながら対応することをあらかじめ打ち合わせていました。しかし、実際にその場面に立ち会うと、どうやってコミュニケーションをとったらいいのかわからなくなり、戸惑ってしまいました。

流れを変えたのはどこかから聞こえた
「やっこさんに顔を描いてあげたい」
の一言!

その参加者さんにマーカーペンを渡したところ、なんと近くにあったやっこさんに顔を描き始めたのです!!

「とってもかわいいやっこさんになりましたね!……もしよかったら私のやっこさんにも顔を描いてもらえませんか?


これをきっかけに初めてその参加者さんともコミュニケーションが取れはじめました。

「あの一言めっちゃたすかったわ。あれ誰が言ってくれたの?」
「他の参加者さんが提案してくれたんだよ。」


また、折り方を参加者さんから教わったり、若い頃の話をしてもらえたりと、参加者さんが昔のことを思い出して話をしてくれることもありました。

「え、“やっこさんのはかま”もあるんですね!折り方を教えてもらえますか?」
やっこさんの折り方を教わる三好さん


「おすすめのドラマを教えてもらったりもしました!」


参加者さんが主体的にワークショップを楽しんでくれた例はこれだけではありません。

「僕のところではやっこさんだけ折って、そのあとは何も折ろうとしてくれなかった参加者さんがいたんだ。」

その人はきれいな千代紙を背景に見立てて、いろんな人が折ったやっこさんなどを飾って楽しんでいました。

千代紙を背景にして、やっこさんを飾るのを楽しんでいる参加者さん。
田邊さんの折ったやっこさんも飾ってくれたました。
「へえ!そんな遊び方があるなんて全く思いつかなかったよ。
主体的に取り組んでもらえてよかった!」


施設の人たちの感想

         スマイルサポート・警弥郷倶楽部
           所長の小鷹狩ひろ子さん

小鷹狩さん:
学生さんが持ってきたのが”折り紙”と決まっていたので、利用者さんがどの程度できるか心配でしたが、私の想像を超えるくらい利用者さんが楽しそうにされていたので、学生が溶け込めて一緒に「折り紙をする」という姿勢が良かったです。
折り紙をするというよりも、折り紙を通して交流するという最初の目的がすごく良かったと思います。


まとめ

いかがでしたか?このnoteを読んで、認知症へのイメージが変わった方もいるのではないでしょうか。

認知症の方でも、自分のしたいことを主体的になって行ったり、忘れてしまった手順も少しやり方を教わることで思い出したりと、できることはたくさんあります。

また、認知症の方にもしたいことやしたくないことがあり、それを強制してしまうと良いコミュニケーションを取ることができません。お互いを尊重し合うような関係性を築くことが大切です。


私たちの感想

私の周りには手を動かして何かを作るのが好きな方ばかりだったので、一緒に折るので精一杯かなと思っていましたが、先にどんどん折っていくのでついていくので必死でした笑それぞれの個性が存分に発揮できたワークショップだったと思います!
全体を見ながら司会進行をしつつ、参加者さん達とコミュニケーションをとることはとても難しかったのですが、参加者の方にとても楽しんでいただけて、また施設の方にも喜んでいただけてすごく嬉しかったです。とてもいい経験になりました!
認知症の人たちも出来ることや好きな色とかが違って、当たり前だけどそれぞれ個性があるんだな……。2、3人としかコミュニケーションが取れなかったから、もっと積極的に話しかければよかった。

補足説明

65歳以上は5人に1人が認知症に

高齢になるほどかかりやすくなる認知症。高齢者割合が高くなっている日本では、今後認知症患者が増えることが予想されています。

日本における65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年現在)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されており、高齢社会の日本では認知症に向けた取組が今後ますます重要になります。
「みんなのメンタルヘルス」厚生労働省


認知症の種類

認知症の種類は大きく分けて

アルツハイマー型……約65%
脳血管性型……約20%
レビー小体型……約5%
前頭側頭型……約1%
その他
に分けられます。

*文献によって数値が異なります。

アルツハイマー型、脳血管性型、レビー小体型、前頭側頭型をまとめて4大認知症と呼ばれ、認知症全体で90%以上とも言われています。

手続き記憶

認知症になると、今までできていたことが何もできなくなる。実は”その考え”間違いです。

記憶は「短期記憶」と「長期記憶」に分けられます。さらに、長期記憶は、陳述記憶手続き記憶に分けられます。

手続き記憶というのは、たとえばピアノの演奏や自転車の乗り方、スキーの技術、けん玉のコツなど、からだで覚えた「動作や技能の記憶」。大脳基底核と小脳をつかうため、記憶障害になっても失われにくいと考えられます。
「解明!記憶のメカニズム」エーザイ株式会社


スマイスサポート・警弥郷倶楽部

今回ワークショップに協力してくださったスマイルサポート・警弥郷倶楽部さんの紹介です。

介護、特に認知症を通して、地域の人々と介護に対する理解を共有し、各世代と共に、この地域を高齢になっても認知症になっても安心して住みやすい地域づくりの一翼を担う事を目指している。
又、この事業所を働き甲斐のある職場として地域に提供する。
事業所外に持っている地域交流室(ギャラリー桃蹊)は「地域を家族のように見守る。」の理念を持ち、地域との交流を広げ、利用者とスタッフも地域の人たちと一緒に地域での暮らしを支えあう役割を持つ。
スマイルサポート・警弥郷倶楽部 概要


小規模多機能型居宅介護

介護サービスにはたくさんの種類があります。その中でもスマイルサポート・警弥郷倶楽部さんの介護サービスの種類である小規模多機能型居宅介護について説明です。

小規模多機能型居宅介護は、利用者が可能な限り自立した日常生活を送ることができるよう、利用者の選択に応じて、施設への「通い」を中心として、短期間の「宿泊」や利用者の自宅への「訪問」を組合せ、家庭的な環境と地域住民との交流の下で日常生活上の支援や機能訓練を行います。
厚生労働省・小規模多機能型居宅介護


Special Thanks

小規模多機能おさ「弥永亭」

小規模多機能ホーム 「ゆふの郷」

田中史王(株式会社森の家 小規模多機能ホーム 森の家みのり荘 社長)

森本剛(看護小規模多機能型居宅介護 三丁目の花や 管理者)

鬼本佳代子(福岡市美術館 学芸課主任学芸主事)

南伸太郎(株式会社ラボラトリオ 代表取締役)

受講授業

2022年度秋学期「プラットフォーム演習B」
担当教員:中村美亜
TA: 平原早和子(修士1年)

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