見出し画像

ライドシェアとウォーカブルシティその関係と可能性についてー都市・交通政策として議論すべきこと

Plat Fukuoka cyclingは福岡のまちがBicycle Friendlyなまちになるために活動しています。『ウォーカブルシティ入門ー10のステップでつくる歩きたくなるまちなか』(ジェフ・スペック著、松浦健治郎監訳、学芸出版社)を読みながら、「Walkable」と「Bicycle Friendly」の関係について連載しています。

これまでの記事は以下マガジンとしてまとめております。

 ジェフは本書で人びとが車のある生活から脱却することで車に使われていたコスト、自転車や公共交通の利用による運動による健康増進、都市空間における道路空間による浪費からの解放、車の交通量の減少による都市環境の改善を述べています。
 一方でウォーカブルシティの提唱者であるジェフ自身も車を持つことの必要性に狭まれていることを告白しています。

車を持たないライフスタイルが良いと主張しているわけでもない。実際、この原稿を書いている時点で、車の購入を真剣に検討している。2人目の子どもが生まれたことで、車が私たちの生活の質の向上に貢献する状況が生まれたためだ。(中略)こんなことを書くと期待はずれに見えるだろうか。しかし、車も選択肢のひとつだという都市のアイデアからは逸れていない。

ジェフ・スペック:ウォーカブルシティ入門ー10のステップでつくる歩きたくなるまちなか,PP72-73

 子どもをもつ家庭での車の必要性は、筆者も経験をしてきたことです。2020年のデータで福岡市内の乗用自動車は616,704台。総世帯が831,124世帯のため1世帯あたりの0.74台。名古屋市が同じようなデータは0.94台なので、福岡市はまだ少ないほうですが、デンマークのコペンハーゲンで車を所有しているのはたった3分の1らしいです。
 車の稼働率というのは、一日のうち3%といわれています。この点の問題点を木下斉さんがこちらの記事で解説いただいています。

 日本ではバス、タクシーを中心にモビリティーの担い手である運転手不足が顕在化しています。注目があつまるライドシェアについて、ジェフは著書でも来日講演の中でも触れていません。ジェフ本人にお聞きしたいところですが、まずは自身での整理として議論すべき内容を述べていきます。


ライドシェアとウォーカブルシティの可能性ー都市・交通政策として議論すべきこと

 ライドシェアは車という移動手段をシェアすることで、車のみをシェアするカーシェアとも似ています。いずれも車の移動には変わりないという点で、車に依存する形態から変わらないと言え、一見ウォーカブルシティとの関連性は低いように見えます。その点を今回はライドシェアはウォーカブルにどのような影響をもつのか、交通の関するステップ1から4の内容から、その可能性と都市・交通政策として議論すべき内容について考察します。

ライドシェアはあくまでプライベートな移動手段。公共交通機関までの補助的位置付けー【ステップ1】車を適切に迎え入れよう

 ライドシェアは車での移動に変わりありません。そのため、ステップ1で指摘されている誘発需要で述べられたように、サービスによって車の移動が誘発されることが予想されます。特に需要が集中する都心部では渋滞が発生することは、フードデリバリーのドライバーがお昼時のマクドナルドで待機するようなことが車で行われるとさらなる渋滞の発生と混乱を生み、ライドシェアに対する否定的な風潮に拍車をかけることになるでしょう。

一般的なライドシェアのイメージ 富山県朝日町で実装されている地域マイクロライドシェアサービス「ノッカル」のスキーム(博報堂プレスリリースより)。都市圏全体で人口密度が低い地域ではこのスキームが有効だが、福岡市のような人口規模の多き都市では既存公共交通機関との組み合わせが不可欠。

 そこでライドシェアは公共交通機関を補助的な移動手段とすることで棲み分けを行うスキームが必要だと考えています。またタクシーは公共交通機関として認められていますが、ライドシェアはあくまでプライベートな移動手段であると定義し、主要な鉄道やバスまでの移動手段として位置づけることが必要です。この棲み分けにより、ライドシェアの車は基本的に最寄りの公共交通機関までのライドを担い、その先は基幹である公共交通機関で移動する、ここでMaasが生きてきます。行政はこれらのプラットフォームが整うタイミングで自家用車に対する中心部への流入規制を入れる必要があると考えています。

ランドシェアは自動運転と同じく都市のスプロール化を現状維持するための対策としてはならないー【ステップ2】用途を混在させよう

 ウォーカブルシティは高密度でミクスとユーズな職住一体の都市空間で成立します。高密度でコンパクトな都市空間により、車に頼らず徒歩や自転車、公共交通機関のみで都市生活が営まれます。一方でライドシェアは車の移動において補助的に公共交通機関までの移動を担いますが、都市計画的な線引きなしにライドシェアを行う場合、確実に都市のスプロール化を助長する危惧があります。これは自動運転に関する技術における懸念事項としてすでにサスティナブルな交通体系を目指すまるまるでも紹介しています。
 生活インフラはこれまでユニバーサルサービスの観点で、どんなところに住んでいても一律の料金体系で構成されていますが、僻地などためのインフラコストは受益者負担の観点で行くと非常に歪な構造となっています。木下斉さんもテレビ番組「ポツンと一軒家」でその点を指摘いただいています。

ライドシェアや自動運転が過疎地の移動を支える必要性を理解しつつも、インフラコストの負担者受益の考え方に基づき人口減少社会における居住のあり方を都市計画全体で考えていく必要があります。

ライドシェアはこれまでの都市の商業立地をトレンドを周辺部から中心部に取りもどす重要なツールー【ステップ3】駐車場を正しく確保しよう

 ライドシェアにより都心部でも田舎のエリアでも駐車場は大幅に減らすことができる可能性があります。ライドシェアは基本的に乗降スペースさえあればよいからです。ここで重要なのが、ステップ1でも述べた通り、ライドシェアはあくまで公共交通機関までとそこからの補助的な移動手段をベースとする原則を守る必要があります。例えば博多駅や天神駅など中心部のターミナルは多くの人が集積します。つまりすでに交通結節点である場所は鉄道、バス、タクシーなどの公共交通機関が人々の移動を担っています。そのようなエリアでのライドシェアの利用は中心部への車の流入の抑制には結びつかないため、行うべきではないと考えます。一方で駅から一定程度離れた立地の飲食店などからのライドは選択肢として当てもいいのではと思います。
 商業施設における駐車場の整備はより大きな駐車場を求め郊外のロードサイドを生み出し、チェーン店化の構造を作り地方部における商業のあり方を大きく変えてきました。一方で、すでにロードサイドの店舗や大規模ショッピングモールも人口減少社会においてはネット通販に押され淘汰の局面に入ってきていると感じます。都心部においても郊外店舗との競争においてウォーカブルゾーンの商業立地の優位性は明らかになっています。こちらも木下さんのコラム参照。

 ライドシェアにより都心部の商業地は車でアクセスする場所ではなく、公共交通機関でアクセスするウォーカブルゾーンへ変貌します。これまで立体駐車場であった土地も商業や住宅の需要により土地利用が転換されます。
  ウォーカブル政策のために国土交通省の都市局と道路局の共同ガイドラインである『ストリートデザインガイドライン』には自家用車は1台も描かれていません。目指すべき将来像はここにも描かれています。

公共交通を機能させるためのライドシェアの可能性ー【ステップ4】公共交通を機能させよう

 これまでのまとめとしてライドシェアは公共交通ではなくプライベートな移動手段として日本で機能させる必要があります。なぜなら限られた道路空間は公共交通が優先して使用かつ、その利用密度を高めていかなければ公共交通の維持が困難となってきているからです。公共交通機関の利用密度を高め、収益性を高めなければ、次なるイノベーションのための投資もできないからです。
 公共交通政策とライドシェアの連携はすでに述べたとおりMaasの連携機能がより役目を果たすことになると考えます。
 ライドシェアは自転車と同じく日本においては公共交通機関として位置付けるためには、非常に中長期的な取り組みが必要です。公共交通機関は国の法的な位置づけや許認可の上で成り立っています。一方で公共交通機関でない自転車やそもそも日本で認められていないライドシェアは道路空間における優先順位が低いままです。自家用車がなぜか道路空間を半ば占有しているのは、日本の現状を示しているとも言えます。
 自家用車を主体とした道路よりも、自家用車を抑制した多様な交通機能が含まれた道路の方が通行量だけでなくアクティビティを創出ことにつながります。この点でも公共交通機関や自転車の役割、可能性の高さを示しています。

道路構成で変わる通行者許容量『ストリートデザインガイドライン』(国土交通省都市局・道路局2021年5月バージョン2.0)P12

 ライドシェアの急いだ規制緩和は上記に述べた内容をきちんと想定し、フレームワークを構築した上で導入されるべきと思います。逆にこれらのことをきちんと行えば、日本の都市空間は劇的に変わる可能性を秘めていると思います。

 いまライドシェアの議論は沸騰している今だからこそ、関係者は少し俯瞰した落ち着いた政策議論がなされればと思います。

 Plat Fukuoka cyclingは今後も自転車だけでなく、様々なモビリティーの将来像を描いていきます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?