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技術 で 情緒 は変わるのか? ー計算機と自然、計算機の自然 @科学未来館

※ 2020年2月28日(金)から3月17日(火)まで臨時休館となりました。

 技術をわかりやすく・楽しく伝える「科学館の展示」として面白いだけでなく、将来、”伝える” ”受け取る” 技術が進歩していったら、アートをみた時の私たちの感じ方はどう変わっていくんだろう?ということまで考える展示でした。

「計算機と自然、計算機の自然」@科学未来館

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 メディアアーティスト・落合陽一さん総合監修で、2019年にオープンした新しい常設展示です。

1 身近にありつつ、知らない技術の世界を覗く

 科学館って楽しいですよね。身近な技術の原理をわかりやすく説明してくれたり、最新の技術が見られたり。こちらも、まずはその楽しさが体感できます。

 例えば、《塵の中にも計算は宿る》

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《塵の中にも計算は宿る》

 普通の砂時計のようですが、砂時計の中にあるのは0.2mm×0.125mmの積層セラミックコンデンサ。ディスプレイにはその1粒1粒が拡大されてリアルタイムに見えるようになっています。携帯電話やパソコンには、こんなに小さな電子部品が数100個以上も搭載されているんですね。

 こんぺいとうが2つずつ入ったケース。触れるようになっていますが、片方は立体映像。《バーチャルってなんだろう?》は、”ボルマトリクスミラー”という湾曲した合わせ鏡を使った展示。その内部にある物体がの虚像が浮き上がって見えます。3Dの像を見せる仕組みの中でもとてもシンプルな仕組みを理解できます。

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《バーチャルってなんだろう?》

 また、「アナログ」と「デジタル」の解像度がどのようにして変わるのかを体感できる《解像度の心得》など、”科学館的”な、身近にある技術をわかりやすく・楽しく伝えてくれる展示が並びます。

2 ”表現”や”感じ方”は、技術で変わる?

 展示の中には”表現”の手段に関するものも。

 例えば、CTスキャンや3Dプリンタを使って伝統工芸の樂焼を再現した《デジタルにオーラは宿るか?》や、高解像度のスキャン・プリントで凹凸までもリアルに感じられる畳や竹の素材感を表現した《はい、おてつき!》など、複製に関わるもの。

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《はい、おてつき!》

 以前、「Digital×北斎【序章】~先進テクノロジーで見えた170年目の真実~」という展示で、絵画の表面凹凸や木目など、超微細なスキャンとプリントや4Kの高解像度ディスプレイで名画を複製した展示などを拝見しましたが、複製の技術が上がって本物と区別がつかないくらいになったら、「照度を落とした美術館の中で人混みの間からちらっと本物を見る」のと、「明るい場所でひとりでじっくりと複製を見る」のとでは、どちらがより作品を”鑑賞する”ことになるんだろう? ”本物”を見る価値も、”気持ち”的な意味合いが強くなってくるのかもしれないなぁなどと想像してしまいます。

 また、人間の手計算では制作が難しいものをコンピュータでのシミュレーションによって実現する《不揃いな枝で家が建つか?》《ドレミの形》。それから、”色素”ではなくnmオーダーの微細な”構造”で色をつくるモルフォ蝶の色すらも印刷で再現する《計算機と自然》など、技術による新しい表現を知ることもできます。

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《ドレミの形》

 例えば”チューブ入り絵の具”を量産できるようになったことが、画家を屋外に連れ出し、印象派のような光に溢れた作品を生んだように、これらの技術で今までにはない新しい表現方法が生まれていくのかもしれません。

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《計算機と自然》

 一方、《ピューイ、ジジジ、、、こちらイルカです。オーバー?》は、イルカの超音波をつかったコミュニケーションについての展示。人間の言葉で表現することが難しいような3次元の空間情報を直接やりとりしていると言われているイルカ。もし、デジタル装置で直接やり取りする情報の量や種類が広がったら、人間も、モノに触れたときの”感じ方”は拡張されていくのでしょうか?

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《ピューイ、ジジジ、、、こちらイルカです。オーバー?》

 例えば、「視覚」や「聴覚」をつかったアートや音楽のほか、近年では「触覚」「嗅覚」「味覚」をつかった作品も生まれていますが、もし感覚が拡張されたら、”いままでにはない感覚”で感じとる作品が出てくるのかもしれない、と考えてしまいます。

3 わたしたちの ”情緒” は変わっていくのか?

 では、表現や受け取り方が変わっていったら、作品を見た時に感じることは変わってくるのでしょうか?

 印象的だったのが、映像作品の《人類は「経験」と「法則」を繰り返す》。「狩猟採取社会」から「現代社会」、さらに「未来社会」、「超未来社会」まで、「画像」「音楽」「計算」「移動」「通信」はどう変化するのか?を時代を追って見ていくアニメーションの展示です。

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《人類は「経験」と「法則」を繰り返す》

 例えば「音楽」。生演奏から、レコードで”再生された音”、ボーカロイドで”合成された歌声”と、表現が広がってきても、それぞれに感動することができることが伝えられます。

 では機械(人工知能)が曲を作るようになったら、人が作ったものでなくても感動する?といった問いかけ。また、コンテンツがどんどん増えていったら人間では聴ききれなくなって ”聞く側”も機械になるかもしれないといった予想も。曲を”つくる”のも”聞く”のも、人間であってもなくても構わない、という未来はくるのでしょうか?

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 例えば、今書いているnoteを読んでくれるのが人工知能だけだったら、ちょっと寂しいような気も… なんて考えてしまいますが、そんな感覚も将来的には”2020年にあった古い感覚”になってしまうのかもしれません。

 「移動」が進歩すれば、どこにでも早く・簡単に移動して、行きたい場所に行き・会いたい人に会えるようになるけれど、「画像」が進歩して高解像度の像が目の前にあれば、目の前にある風景も人も、”リアル”であるかどうかは問題ではなくなる… 選択肢が広がっていく分、そのなかで自分が大切にしたい感覚はいったいどれなのかということを、今以上に意識するようになっていくのかもしれないと思いました。

 さて、技術や未来にばかり目が向いてしまいましたが、1周して最後に気になったのは展示の入り口にある、《はじめに光あり》。書家・紫舟さんの書をもとにつくられたオブジェです。

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《はじめに光あり》

 解説では、江戸時代の禅僧・仙崖和尚について触れられていましたが、私が思い出したのは「中・高生のための現代美術入門 ●▲■の美しさって何?」(本江 邦夫)という書籍。現代アートの入門書ですが、この中で、”○△□といった「図形でしかなかったもの」が、20世期に入って「抽象美術」として芸術になっていく様子”が記されています。(この本では言及されていませんが、そこにはさらに写真という”技術”の誕生も影響もしていると思います。)

 ”プリンターでつくられたモルフォ蝶”と共存する”木々や生花”のどちらにも美しさを感じるように、今感じられる情緒はそのままに、情緒を感じる”表現”やそれを”捉える手法”の広がり、それからわたしたちの感じ方の変化とともに、情緒の多様性、”アートだと感じられるもの”の多様性はさらに広がっていくのかもしれないと、入り口の「○△□」に帰結しながら、そんな期待が広がっていく展示でした。

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 科学未来館の3Fに常設展示されています。

※ 余談ですが、この展示で見た「将来あるかもしれない”感じ方”の変化」って、2018年の「ハロー・ワールド ポスト・ヒューマン時代に向けて」展 @水戸芸術館 でエキソニモの《キス、または二台のモニタ》を初めて見た時の感覚にすごく近いなぁと思いながら見ていたりしました。


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【展覧会概要】 常設展「計算機と自然、計算機の自然」

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会場:科学未来館 常設展示室
※ 2020年2月28日(金)から3月17日(火)まで臨時休館
時間:10:00~17:00休館日:火曜日(火曜日が祝日の場合は開館)、年末年始(12月28日~1月1日)
入館料:常設展 大人630円、18歳以下210円

総合監修・アートディレクション:落合陽一
監修協力:伊藤亜紗、加藤真平、後藤真孝、杉山将、登大遊
空間デザイン:noiz
制作:株式会社TASKO、株式会社つむら工芸、株式会社ホーダウン
協力アーティスト:一乗ひかる、紫舟、樂焼 樂家十六代 樂吉左衞門、辻雄貴氏、ハギーK


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