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「シュルレアリスム」 と 「シュール」の違いって? ーシュルレアリスムと絵画 ーダリ、エルンストと日本の「シュール」 @ポーラ美術館

 「シュールな漫画」とか「シュールな笑い」とか。不可解なものに出会った時に言ってしまう「シュール」という言葉。語源は「シュルレアリスム=超現実主義」だとは思うけど、実際にシュルレアリスムの作品を見ると、その「シュール」とはちょっとニュアンスが違うような…?

 ポーラ美術館で開催中の「シュルレアリスムと絵画 ーダリ、エルンストと日本の「シュール」」展は、そんな日本語の「シュール」がどこから生まれてきたのかを紐解いていくような、ちょっと変わった”シュルレアリスム展”でした。

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1) エルンスト、ダリ、マグリットらのシュルレアリスム絵画を堪能

 1924年にフランスの作家アンドレ・ブルトンを中心にはじまった、無意識の世界を描き出す芸術運動「シュルレアリスム」。展示の初めは、このシュルレアリスムで著名な作家たちの作品が並びます。

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(マックスエルンスト「博物誌」より《光の輪》のイメージを使ったパネル。こちらのみ撮影可でした。)

 エルンストによる、凹凸のある物質を鉛筆などでこすり出した”フロッタージュ”の手法で制作された もとの物質とは異なる幻想的なイメージの数々や、ダリによる現実世界にはないイメージの世界、騙し絵のようなマグリッドの作品などが堪能できます。

2) 日本の「シュール」とは?

 続く展示室では、1930年代の日本で ”シュルレアリスムの影響を受けた作品”が展開されていきます。古賀春江さんや、国立近代美術館で小企画展を開催中の北脇昇さんらの作品などが並びます。

 でも、この「日本のシュルレアリスム」の作品を見ていくと、その前の展示室とは少し違った雰囲気を感じます。

 日本に取り入れられたシュルレアリスムは、はじめ、”無意識”や”偶然性”といった考え方の部分ではなく、形式として取り入れられていき、”現実世界にあるものが、ありえない組み合わせで並べられた絵画”という形が独自に発達していったのだとか。

 吉原治良さんや、瑛九さんといった実験的な手法を取り入れた作品を経た後、展示は つげ義春さんの「ねじ式」の不条理な世界の漫画資料や、ウルトラマンのデザインを手掛けた成田亨さんの現実にあるものを組み合わせて作り出されたリアルな怪獣のドローイング作品へと展開されていきます。ここにくると「シュールな絵だ…」と感じるかもしれません。

 今回の展覧会に登場するわけではありませんが、ふと、明和電機の土佐信道さんは、「コモンセンス=常識」に対して「ナンセンス=超常識」と訳していたことを思い出しました。ひょっとしたら「シュルレアリスム=超現実」に対して、日本で再解釈されて生まれた「シュール」は「シュール=超常識」の世界なのかもしれないなぁなんて考えてしまいました。

3) 束芋さんの特別展示も

 展示の最後には、現代アーティスト・束芋さんの版画、ドローイング、映像インスタレーションなどが展開されます。

 作品に登場するモチーフは身近なものでありながらも不条理な作品世界はまさに「シュール」。でも、版画作品ではニードルで直接銅板を引っかく「ドライポイント」の技法で生まれる微妙なにじみなどの偶然性だったり、映像作品ではパソコンに取り込んだイメージや色の偶然の出会いをインスピレーションに制作をしていたり、そこから生まれてくる悪い夢のなかのようなイメージは、最初に見たエルンストの作品にもつながってくるようにも感じられてきました。

 ”シュルレアリスム展”というイメージで見るとちょっとびっくり。でも、「シュルレアリスム」と日本の「シュール」のイメージの間を埋めてくれるような、ユニークな展示でした。

 2020年4月5日(日)までです。


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(ポーラ美術館は建物もとても素敵な美術館です。)

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【展覧会概要】 シュルレアリスムと絵画 ーダリ、エルンストと日本の「シュール」 @ポーラ美術館

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会期:2019年12月15日~2020年4月5日
時間:9:00~17:00
休館日:無休
観覧料:一般 1800円 / 65歳以上 1600円 / 大学・高校生 1300円 / 中学生以下無料




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