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【展覧会レポ】 日産アートアワード2020 ファイナリストによる新作展 @ニッサン パビリオン

国内でも最大規模のアートアワード「日産アートアワード」。そのファイナリスト5名による新作展が横浜で開催されています。今回は、コロナ禍の様々な製薬の元で制作されてきた新作展ながら、5アーティストそれぞれにことなった方向性のテーマであったのが印象的な展覧会でした。

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キュレーターや研究者、NPOなど、異なる背景を持つ10名の候補者推薦委員からの推薦と国際審査委員会による審査を経て選抜されるファイナリスト。

今回のファイナリストは潘 逸舟さん、風間 サチコさん、三原 聡一郎さん、土屋 信子さん、和田 永さんの5名。こちらのなかから特に3名を中心に作品をご紹介します。

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▲ 会場のニッサンパビリオン。横浜駅から少し歩いた、アンパンマンミュージアムの隣。「モビリティの未来を体感する」日産による期間限定のパビリオンです。

■モノクロ版画による痛烈な風刺画:風間サチコさん

会場を開けてまず目に飛び込むのは、風間サチコさんによる約2.4M×6.4Mの巨大なモノクロの版画作品。

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《ディスリンピック2680》 / 風間サチコ

「現在」起きている現象の根源を「過去」に探り、「未来」に垂れこむ暗雲を予兆させる黒い木版画を中心に制作する風間さん。

今回は、幻のオリンピックとなった1953年の東京オリンピックを現在を交差させ、皇紀2680年(西暦2020年)に架空の都市・ディスリンピアで開催されるオリンピックの開幕式の様子を描いた《ディスリンピック2680》を中心に、「負のレガシー」をテーマとした複数の版画作品で構成されています。

メインの《ディスリンピック2680》は、昨年gallery αMでの「『東京計画2019』vol.2 風間サチコ バベル 」展で発表されたものですが、オリンピック開催を目前に控えていた発表当時に対して、「ウイルスのような太陽や、ソーシャルディスタンシスを守る乙女たち、そして無観客開催…(風間さん解説文より)」と、開催延期中のコロナ禍の今見るのとでは、また違った読み取りかたもできる作品になっています。

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《COUNT ZERO》 / 風間サチコ

「経済至上主義」を「パビリオン」という象徴に置き換えた今回のシリーズ。国立競技場に加え、会場であるニッサンパビリオンと日産車すらもそのモチーフとして使われています。

荒々しい彫刻跡のモノクロームの作品の中に、強い問題意識が現れている作品です。

■「水」をつかった自然現象を会場内に再現:三原 聡一郎さん

音、泡、放射線、虹、微生物、苔、気流、電子など多様な素材をモチーフに、自然現象とメディアテクノロジーを融合させた作品を制作されてきた三原 聡一郎さん

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《無主物》 / 三原 聡一郎

今回の作品《無主物》は、生命や産業など、あらゆる分野で重要な「水」をテーマに、2年前から調査を行ってきたというもの。
ペルチェ素子を使って空気中の水分を結露させ、また天井から釣られたデバイスも同様に水滴をつくり、時々くるくると回りながら雨のように水を降らせ、さらにその下には、生命としての苔がいます。

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《無主物》 / 三原 聡一郎

パッと見たときには動きは見えないし、音もしない、とても静かで静的な作品ながら、じっと目を凝らせば、水の形態の変化や動きがあり、それは地球上の水の循環を展示室のなかに再現し、生命との関係性を見せるような非常にダイナミックな作品です。

■電子音楽でコロナ禍の各国の状況を可視化:和田永さん

個人的に今回特に印象的だったのは、和田永さん。古いオープンリール式テープレコーダーを楽器として演奏するグループ:Open Reel Ensembleとしての活動や、ブラウン管テレビなどの旧式電化製品と現代のテクノロジーを融合させて、新たな楽器や奏法を編み出すパフォーマンス、また、それを様々な人々が共創しながら合奏する「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」などの活動をされています。

そんな和田さんの今回の作品《無国籍電磁集団:紀元前》は、この電子楽器のパーツのみを各国へ送り、現地の中古家電と合わせて組み立て、個別の演奏を合わせて合奏にするというもの。和田さん自身が「今でしかできない新作、交流、人との関わり方」と語る通り、現状を大胆に取り込んだ作品です。

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《無国籍電磁集団:紀元前》 / 和田永

各国に荷物が届くまでの時間(国によってはまだ到着しない場所も)や、届いて中古家電を買って組み立てるまでの過程で各国の状況が見えてきます。

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《無国籍電磁集団:紀元前》 / 和田永

各楽器の組み立て方や演奏法はこの「電磁魔術書」にまとめられています。(手にとって読めます。)人が旅をできないなか、作品の「概念」が世界中を旅するというのは、なんだか気持ちも前向きになれます。

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《無国籍電磁集団:紀元前》 / 和田永

コロナ禍の今の状況を反映しながらも、批判や後退ではなく、新しいコミュニケーションのかたちを提示しつつ、なんといっても楽器と演奏そのものがとても楽しい作品です。

8/22 Domuunで5時間のトーク番組も予定されているそうです。

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このほか、土屋信子さんは、コロナ禍で様々な素材が手に入りづらいなか、身近なものや廃材を用い、音楽用語をタイトルにした彫刻8点を展示。

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《Multi-Echoes Multi-Echo, Breve, Repeat, Crertcht, Key, Rest, Sharp, Quaver》 / 土屋信子

潘 逸舟さんは、単独で漂流していくエマージェンシーブランケットをまとった消波ブロックをモチーフにした没入感あるインスタレーションで表現し、社会との接続について考えさせられるような作品を展開しています。

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《where are you now》 / 潘 逸舟

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5人それぞれがまったく違ったテーマと表現方法を使いながらも、2020年の今の状況を取り込んでいるのが印象的でした。

なお、これから決定するグランプリの発表&授賞式は、オンラインで生中継される予定とのことです。

日時:8月26日(水)17:40-18:00
視聴URL:https://youtu.be/EdrX8Y1RhU4


また、今年は「#おうちで美術鑑賞」として、日産アートアワード2020の展覧会の様子を映像でも楽しむことができます。

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【展覧会情報】日産アートアワード2020 ファイナリストによる新作展 @ニッサン パビリオン

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会期:2020年8月1日(土) 〜9月22日(火)
月曜日から金曜日は11:00〜19:00、土曜日・日曜日は10:00〜19:00
アーティスト:潘逸舟、 風間サチコ、 三原聡一郎、 土屋信子、 和田永
入場料:無料


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