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阿房宮(あぼうきゅう)/菊(イエギク)、食用菊/青森県・南部地方

<一般的な植物・作物の基本情報>
【キク(イエギク)】菊(家菊)
学名:Chrysanthemum morifolium
英名:Chrysanthemum、mum
キク科キク属 多年生
原産国:中国
▼主な生産地(食用菊)
愛知県(小菊)、山形県(延命楽・もってのほか)、青森県(阿房宮)、新潟県(延命楽・かきのもと)

<基本情報>

一般的に目にする菊は栽培菊のことを指す。栽培種は世界で多数あるが、観賞用も食用も分類上はこの1種のことで「イエギク」ともいう。資料によって「正式和名」「別名」のどちらも記載があり、現時点では不明。

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中国から伝来した外来種で、イエギクも交雑によって誕生したとされる。日本で観賞用に品種改良されてきたものを「和菊」、欧米で育種された「洋菊」といい、区別される。(図鑑によっては洋菊の学名をDendranthema x grandiflorumとしているものもあり、現時点で不明)

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▲伊勢神宮にて

日本在来種のキク科キク属は「ノジギク」(野路菊・Chrysanthemum japonense・西日本)などの小菊の原種で、イエギクとは区別される。
(「野菊」は菊に見える花の総称で別属のものも含まれる)

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▲ノジギク

<文化・歴史>

平安時代あたり(万葉集には書かれず古今和歌集に登場する)に観賞用や生薬として、中国の「重陽(ちょうよう)の節句」(菊の節句)の文化とともに伝来。菊茶・菊花酒なども含め現在に至る。

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▲葛飾北斎/北斎花鳥画集「菊に虻」(1831~33年頃、シカゴ美術館蔵)

江戸時代から庶民に広がり品種改良が進んだ。「古典菊」(江戸中期に各地で発展)のひとつ、形の変化を楽しむ「江戸菊」などは、中国に逆輸入され広がった。ヨーロッパの園芸種も日本の影響を受けイギリスを中心に広がり様々な品種が日本に再上陸している。

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<食用菊(ショクヨウギク)>

※以下紛らわしいのでカタカナ表記にする。

食用としての記載は、江戸時代の『本朝食鑑』(1695)が最初とされている。花弁を煮て、羹(あつもの・吸い物)に入れたり、醤油につけ食用としたことが書かれている。

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ショクヨウギク全体の生産量は5割近くが愛知県で、刺身の「つま」などに利用する小輪種については全国9割ほどのシェア。(観賞用も一位)

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大輪種のショクヨウギクは大きくは、紫色・管弁の「延命楽(えんめいらく)」、黄色・平弁の「阿房宮(あぼうきゅう)」の2種(同系統の種類は複数あるが割愛)。

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「延命楽」の名は、山形県庄内地方での古くからの呼称とされ、山形県では通常「もってのほか」「もって菊」として出回っている。新潟県では同種を「かきのもと」「おもいのほか」と呼ばれている。

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▲東北では広く栽培されている模様

「もってのほか」の名称由来は諸説あり、御紋の花を食べるのはもってのほか、もってのほか美味しい、と言われているが定かではない。
新潟県「かきのもと」の由来も解明されていないが「柿の実が色づいてくるころ赤くなるから」というのが一般的に言われているようだ。

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「阿房宮」

青森県三戸郡南部町を中心とする南部地域の特産。江戸時代、南部藩主が京都の九条家から観賞用として伝わったとされる。
阿房宮の名の由来は、中国・秦の始皇帝が建てた大宮殿の名から。菊を愛でたと言われる。

<主な栄養成分・フィトケミカル>

人間の体内にもある解毒物質、アミノ酸化合物である「グルタチオン」の産生を高めることが分かっている(ポーラ研究所2008年)。日本では日本薬局方に登録があり、点眼薬や肝機能改善等の医薬品などに使用されている。
(薬用に生産されている菊花があり最も多く含まれている)

抗炎症作用(発癌の抑制、コレステロール低下など)などについても研究が進んでいる。( 日本大学薬学部・理学部 山形県衛生研究所)

他にはクロロゲン酸(ポリフェノールの一種)や、ビタミン、ミネラルも多く、特にビタミンC、β-カロテン、葉酸をはじめとするビタミンB群などが多く、抗酸化作用が期待できる。

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フラボン(黄色のフラボノイド色素)には鎮静作用あるとされ、中国ではお茶として飲まれることが多い。※「リナリン」と書かれているのも散見するが不明。

<青森県では>

「阿房宮」は南部町の特産。周辺の南部地域(岩手県に近い東南側)で広く栽培され、八戸市が育種した通常の収穫期(11月)より早い(9-10月)品種、「八戸ぎく一号」「八戸ぎく二号」「十五夜」がある。

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時期になると「菊ほかし」と呼ばれる花びらをむしる作業が続く。入手できる地域では、生を茹でてお浸しにすることも多いが、流通の多くは「干し菊」「のし菊」。(一度蒸したものを干して四角くまたは丸型に海苔のように加工したもの)

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▲とある道の駅で大きさに驚き撮影したもの。もっと大きいものも。

園芸種においては、八戸市で育種された古典菊の一つ「奥州菊」が古くから知られている。「大掴み(おおつかみ)」とも呼ばれる(上部が手で掴んだように見えることから)。

毎年11月には「はちのへ菊まつり」が開催されている。

20190926-153359八戸市

▲八戸市 都市整備部 公園緑地課より掲載許可いただきました。
https://www.city.hachinohe.aomori.jp/soshikikarasagasu/koenryokuchika/matsuri_event/1/15394.html

▼阿房宮はこちら


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