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食物繊維の歴史から学ぶこと

先日、栄養検定の受験を通じて勉強した中で面白い話があった。

人間が食事から取る食品成分の中で重要なものの一つに「食物繊維」がある。炭水化物の一種で消化吸収はされないが、糖質の吸収をゆるやかにしたり、便のかさを増やして便通を促したりと、健康にとって重要な成分と考えられている。最近はとみに「腸活」が流行っているので、たいていの人は何となく食物繊維の存在や働きを知っていることと思う。

食物繊維は「ヒトの消化酵素で分解されない食物中の総体」と定義されています。水に溶ける水溶性食物繊維と、溶けない不溶性食物繊維とに大別されます。食物繊維の多くは、単糖がたくさん結合した多糖類の仲間ですが、消化されないため、エネルギー源にはなりません。
水溶性食物繊維は、水に溶けやすく、水に溶けるとゼリー状になります。小腸での栄養素の吸収の速度を緩やかにし、食後の血糖値の上昇を抑える効果があります。(略)水に溶けにくい不溶性食物繊維は、水分を吸収して便の容積を増やします。便が増えると、大腸が刺激され、排便がスムーズになります。また、有害物質を吸着させて、便と一緒に体の外に排出するため、腸をきれいにして大腸がんのリスクを減らしてくれます。

ところが、意外なことに、食物繊維が重要な栄養素と考えられたのはつい最近のことで、広く知れ渡ったのは1970年代とのことだという。いくつかWebサイトや文献から抜粋する。

食物中のデンプン以外の多糖類に対する消化酵素の分解性や、その生理作用
の研究はかなり以前から行われてきましたが、健康や疾病の予防に関する効果がある食品成分としての食物繊維が注目されてきたのは、1970 年代のバーキット(Burkitt)らの「食物繊維仮説」2)からです。それは、「食物繊維の少ない食品、すなわち高度に精製された食品を食べると、便の容量が低下し、排便回数が少なくなり、便の移動速度が低下する。よって、発ガン物質と大腸粘膜の接触時間が長くなり、大腸ガン発生の危険か高まる。」というものでした。
『食物繊維の定義と分類』
食物繊維の歴史は古代ギリシャにさかのぼります。そのころから小麦ふすま※1は便秘予防にいいことは知られていたのですが、食物繊維は、「エネルギーにならない」「必要な栄養素まで消化・吸収されにくくしてしまう」食べ物のカスだと考えられていました。
また、食物繊維が多く含まれていると食感が損なわれるので、人々の嗜好に合わせてやわらかくて食感のよい食品がつくられてきました。
1930年代になってケロッグ※2は小麦ふすまに関心を持ち、便秘患者・大腸炎患者への影響を確認しました。

全く未知の成分ならいざしれず、存在自体は知られていたが消化吸収されないということで、長らく不要な成分と考えられていたというのだ。

「体に悪い」ないし「体には不要」と考えられていた成分が、実は「体にとって重要」と転換されたらびっくりするだろう。今で言えば「タバコは体に悪い」が常識とされているが、「実は体に良い」となれば衝撃の事実となるだろうし、実際そう言われても「そんなわけ無いじゃんww」と大抵一蹴されて終わりだろう。

ちなみにやはりどんなものにもメリット・デメリットはあるもので、実際タバコの煙が現在話題のアレの抑制に効果があるという話もあるらしい(私はタバコの煙が嫌いなので、どっちにしても吸うつもりは無いけど)。

さて、ここで押さえておきたいことは「食物繊維は人間にとって重要な成分」というよりも、「現在常識とされていることが、未来には異なる見解で更新され塗り替えられる」ということだ。

哲学者の牧野紀之さんはこのことを一般化した上で、教育現場でのあるべき振る舞いを整理している。

 換言するならば、学校で教えている事の8割は間違いである。今「真理」として教えられている事の内、何%の事が50年後の学校でそのまま「真理」として残っているか考えてみれば分かるであろう。
 その内のいくつかは完全な間違いとされているであろうし、残りの大部分もより正確な真理(理論)の1部分に格下げされているであろう。(略)   
 個人によって変わる事柄については、私の哲学の授業のように、「自分の考えを自分にはっきりさせること」を授業の目的として断ればよい。しかし、それは「明白な正解がない」という不可知論ではない。正解があるからそれを求めて考えるのである。どんな正解でも歴史的な正解(その時点での正解)でしかないだけである。

「科学的な結論」などと言われるとあたかも客観的認識を得たかのような錯覚に陥るが、現在正しいとされている知識も時間の経過とともに更新されるということを頭の隅に入れておかなければと思う。

以下、関連した話題の面白い本。

↓牧野先生の著書。名著。

↓地動説と天動説をめぐるアレやコレやを扱った漫画。結構グロいシーンもあるので注意。

↓営業学の基本がわかりやすくまとまってる。




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