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レキシントンの幽霊

"僕が本当に怖いと思うのは、青木のような人間の言いぶんを無批判に受け入れて、そのまま信じてしまう連中です。自分では何も生み出さず、何も理解していないくせに、口当たりの良い、受け入れやすい他人の意見に踊らされて集団で行動する連中です。"1996年発刊の本書は様々な怖さを秘めた7つの短編集。

個人的には『読書会という幸福』で、本書が課題図書として取り上げられた会の様子が描かれていたのをキッカケに手にとりました。

さて、そんな本書は先ほど引用した全国学校図書館協議会から『集団読書用テキスト』にも指定された『沈黙』そして、国語教科書にも採用された表題作。ボストン郊外のレキシントンの古い屋敷で留守番をしている時に不思議な出来事に出会う『レキシントンの幽霊』他、それぞれ長編の『ダンス・ダンス・ダンス』『TVピープル』(1990、1991)そして『ねじまき鳥クロニクル』(1996)執筆後に書かれた作品が、発表時から"伸ばしたり、縮めたり"といった形で7作品が収録されているわけですが。

中では、飛行機待ちの暇つぶしに"僕"が普段は温厚でのんびりとした"大沢さん"に『これまでに喧嘩をして誰かを殴ったことはありますか?』と訊ねたことから意外な過去話が展開していく『沈黙』が今の【ポピュリズムに支配された政治】【タレント等にわかりやすさを求める風潮】を予見しているようで印象に残りました。

また、50代半ばになった男が10歳の時に出会った巨大な波、その波に『大事なものを呑み込んで、別の世界に運び去られてから』回復するまでを語る『七番目の男』には執筆後、2011年に起きた【東日本大震災からの再生】を勝手に重ねて読んで、被災地やそこに住む人たちのことを思い出したりしました。

著者ファンはもちろん、死や再生、つながりを想起させる作品を探す方にもオススメ。

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