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忘れられた日本人

"いままで農村について書かれたものは、上層部の現象や下層の中の得意例に関するものが多かった。そして読む方の側は初めから矛盾や非痛感がでていないと承知しなかったものである"1960年発刊の本書は主に西日本の無学社会、記憶の文化を継承する老人達を生き生きと描いた民俗学の傑作的一冊。

個人的には、個や物や地域性を出発点にしつつも『普遍化しようとした』柳田民俗学を乗り越えようとした本書。久しく積ん読状態になっていたのですが、ようやく機をみて手にとりました。

さて、そんな本書は年寄りを中心に【古い伝承のなされかたについて】の雑誌連載『年寄りたち』を増補添削して一冊にまとめたものなのですが。各地域に【どのように取材したかも含めて】紹介していることもあり、まるで著者と一緒に同席して老人や女性たちの【個人的なエピソード、集落自体に失われたしきたり話】を聞いているような没入感があって、とても楽しく読むことが出来ました。

また、本書の多くは【文字を読めない人たちにページを割いていますが】そうした人たちを決して否定的に眺めず『自分のしなければならない事は誠実にはたし、また隣人を愛し、どこかに底ぬけの明るいところを持っており』と全編にわたって肯定的に愛情を込めて書いているのも印象に残りました。記録や歴史の表舞台には残されなくても、まさに【忘れられた日本人】近代以前の記憶を浮かび上がらせてくれています。

勝者や有力者といった立場で記録された教科書で学ぶ歴史とまた違う日本の姿を知りたい方、また近代以降に何を失ったかを確認したい人にもオススメ。

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