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ビラヴド

"一二四番地は悪意に満ちていた。赤ん坊の恨みがこもっていた。その家に住んでいる女たちはそのことを知っていたし、子供たちだって同じだった。"1987年発刊、ノルウェーブッククラブ推奨の世界小説100選他、2006年ニューヨーク・タイムズ"過去25年間で最も偉大な小説"にも選ばれた本書は、実際の事件をもとに描かれた愛と告白の物語。

個人的には著者デビュー作『青い眼が欲しい』に続く2冊目として"ようやく"手にとりました。

⁡さて、そんな本書は奴隷解放が始まっていた1850年前後のアメリカはオハイオを舞台にして前述の唐突にして不穏な冒頭、"悪霊が棲んでいる家"という奇抜な設定から始まり、その後、悪霊に打ち勝ち平穏を取り戻すも束の間。今度は『愛され者』ビラヴドという謎の若い女が現れて。。なのですが。

まあ、本書の物語の結末はさておき。変にテンション高く前のめりだったり、誇張したりせずに【何度も違った目線から淡々とストーリーを重ねていく】語り口(南アメリカゴシック文学)は【率直に言えば読みづらい】一方で、ジェイコブ・ローレンス他のアフリカ系アメリカ人『画家』たちにインスピレーションを受けて創作していると公言している著者のテキストは【どこか視覚的、映像的で】だからでしょうか?"目を背けたくなるような"重たい差別描写が脳裏に"それでも"自然と浮かんできて、読み終えた後に感情がぐったりとしてしまった。(既読の『青い瞳が欲しい』から、予想&覚悟はしていましたが。)

また、あとがきで初めて知ったのですが。この何とも【幻想的なフィクション】である本書が、1865年に起きた事件。逃亡奴隷のマーガレット・ガーナーという黒人女性が4人の子どもを『愛するがゆえに』道連れにしようとして途中で捕まった事件から着想を得たことを知り、どこか鬱エンドで有名な映画『ミスト』を思い浮かべつつ、また自らの事として黒人差別の歴史を背負うのは困難であるとしても、少なくとも【知り、考え、そして様々に共感する機会を与えてくれた】本書に感謝を。

⁡『今も続く』アフリカ系アメリカ人の差別の歴史を知りたい方はもちろん、日常と非日常の境が曖昧な魔術的(マジック)リアリズム作品が好きな方にもオススメ。

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