見出し画像

肉体の悪魔

"彼女の両手が僕の首に絡みついていた。遭難者の手だってこれほど絡みつくことはないだろう。彼女は僕に救助してもらいたいのか、それとも一緒に溺れてほしいのか、僕には分からなかった"1923年発刊の本書は、三島由紀夫が『究極の小説』と絶賛した事や映画化でも知られる【若くして夭折した天才作家が描いた】洗練さと冷徹さが印象的な悲劇的恋愛小説。

個人的には【好き嫌いがはっきり分かれる気がする】本書ですが、主宰する読書会に備えて三島由紀夫を再読している事もあり、強い影響を与えたことがよくわかる本書を再読してみました。

さて、そんな本書は第一次世界大戦下のフランスを舞台に15歳の『僕』と、19歳の人妻マルトとの不倫という題材としてはありきたりな小説なのですが、驚かされるのは著者本人が嫌悪感を抱くとしてもやはり指摘せざるを得ない【著者の執筆当時の若さ】(17歳から執筆開始、20歳で完成)そして、年齢にそぐわない【恋愛心情の把握に対する深さ】でしょうか。完成度の高さには唸らされます。

一方で、物語全体の構成としては恋愛小説の【王道というかテンプレ的で】昼ドラ的ドロドロ展開が好きな人には逆に【あっさりしすぎて納得がいかないかもしれませんが】それがかえって本書を普遍的な名作として位置付けているのではないかと思いました。

ジャン・コクトーや三島由紀夫ファンはもちろん、悲劇的な恋愛小説好きな人にもオススメ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?