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パトリックと本を読む

"『私が本を読むのが好きな理由、わかる?それはね、本がかっこつけてないから』生徒たちが耳を傾けている。これは効いている。『本を読むと、人の心の声が聞こえてきます』私は続ける。『とんでもないことをしたりする人でも、その人がどう感じているのかわかる。その人の心の中で起きていることが理解できるようになる』2020年発刊の本書は【読書を通じた対話や学び】が魅力的に描かれた一冊。

個人的には読書会の主宰もしていることから『絶望から立ち上がるための読書会』というサブタイトルにひかれて本書を手にとりました。(結果として複数で輪になって感想を述べあう。いわゆる【私がイメージした読書会】は本書にはでてきませんが)

さて、そんな本書は台湾系アメリカ人女性である著者がハーバード大学を卒業後、理想に燃えてミシシッピ川畔のさびれた町ヘレナ、貧困地域の黒人ばかりの底辺校で【読書を通して文学や歴史を教えよう】と奮闘、工夫を重ねて生徒たちと信頼関係を築くのに成功するも、著者がさらなるキャリアアップを求めてハーバード・ロースクールに行くために学校を離れた途端にバラバラになってしまい、中でも、もっともお気に入りで優秀な生徒であったパトリックは犯罪を起こして収監されてしまうわけですが。

最初に印象に残ったのは、いわゆる【社会問題や人権問題に意識の高いエリート】である著者のしかし飾らず、また挫折や失敗にめげずに生徒たちに教師の時はもちろん、元教師になっても【対等に向き合おうとする姿】でしょうか。そして向き合い【立場が違っても共有できるものとして】著者は常に『読書』を選択していくわけですが。その結果おきる教え子たちの劇的な変化の様子は映像的な美しさすらあって感動的です。

また、著者自身は移民二世としてアメリカ人としての自覚をもっているものの、そんな事には関係なく無遠慮に自分に向けられるアジア人差別、またアメリカの歴史には白人と黒人の話ばかりで【アジア人が存在しない】とマイノリティさを感じたことから、かっての黒人人権運動の指導者達、キング牧師やマルコムXといった人物に心境を重ねていくのが、想像するしかできなくも新鮮に感じました。

読書を通した『何かしらの学び』に関わっている誰か。あるいはアメリカ人エリート学生のキャリア選択に対する考え方に興味ある方にもオススメ。

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