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つまみ食い文学食堂

"暗い中、ふつふつと煮えた鯨蠟の鍋を囲んで、ほどよく揚がった揚げパンが出来るのを待っている水夫たちの輪に、できれば僕もこっそり交ざりたい"2006年発刊の本書は翻訳者で知られる著者が英米文学を『白鯨』の揚げパンから『ムーン・パレス』のチキンポットパイまで【食の視点】から軽妙に調理したエッセイ集。

個人的には、レシピ集というより食に関するエッセイ好きな事から、翻訳を手がけた本で何冊もお世話になっている著者は【どう料理しているのだろうか?】とわくわくした気持ちで手にとりました。

さて、そんな本書は『ジュリエットの卵』などで知られる吉野朔実がイラストを手がける世界に【著者自身がキャラクターとして紛れ込むようにして】メニューや、一族集合、不味い食事に一人酒場などをテーマにして【文学作品での食描写を雑学豊かに紹介してくれている】のですが。

まず個性的なのは、後書き対談集でも触れられているように【旨いものをストレートに書くのではなく】気づけば【大体不味いものの話になっていた】という所でしょうか。私がよく手にとってきたのがどちらかと言えば吉田健一や檀一雄、池波正太郎といった食通達が生き生きと料理や食材の魅力を語っている本だったので、とても不思議な印象でした。

とはいえ、著者自身が【素材が三つあればひとつのエッセイが書ける】とも書いているように、確かに食のエッセイなのですが、食自体に固執せずに翻訳を手がけた英米文学裏話など自由に流れるように話題を展開してくれていて。その中に既読本が出てくるとやはり海外文学好きとしては学べるところも多く、嬉しい気持ちになりました。

著者ファンはもちろん、英米文学、食エッセイ好きな誰かにオススメ。

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