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パニック・裸の王様

"想像していたより太郎はひどい歪形をうけていた。彼は無口で内気で神経質そうな少年で、夫人とぼくが話しているあいだじゅう身じろぎもせず背を正して椅子にかけていた。"1960年発刊の本書は芥川賞受賞作を含む"組織の中で生きる人間"をテーマにした4篇を収録した傑作短編集。

個人的には著者作は『日本三文オペラ』についで手にとりました。

さて、そんな本書はアンデルセンの"裸の王様"を下敷きに画塾へ来た少年、太郎と『僕』の交流、魂の救出を描く芥川賞受賞作『裸の王様』カミュのペストを彷彿とさせるネズミの大量発生に対処する役人の悲哀『パニック』著者の会社員経験がうまく活かされている製菓会社同士の競争話『巨人と玩具』そして、入れ替わり立ち替わり様々な兵士たちに蹂躙される町の人々を描く『流亡記』と、当時の【急速に組織化されつつあった戦後社会】を背景に【抑圧されながら生きる人間】をテーマにした4篇が収録されているわけですが。

ビジネスパーソン的寓話『パニック』や『巨人と玩具』もそれぞれ社会や組織に対する皮肉さが感じられて面白かったが、20代の作品らしく【初々しさと実験的な野心を感じる】『裸の王様』が、私自身が絵画好きということもあって面白かった。

また、架空の町の話かと思って読んでいた『流亡記』が、始皇帝による万里の長城工事へと繋がっていくのに驚き、2022年現在。丁度、人気マンガの実写映画として公開されている『キングダム』が浮かび、マンガや映画では華やかに描かれる戦場の将軍や兵士たちの一方で【当時もこうして犠牲になる人たちがいたのだろうな】と、そんな事を考えたり。

昭和の空気感が保存された社会派小説が好きな方へ。また優れた短編作品を探す人にもオススメ。

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