見出し画像

夏と花火と私の死体

"最後に、踏み台にしていた大きな石の上に背中から落ちて、わたしは死んだ。(中略)体中の穴から赤黒い血が流れ出している。それはほんの少しの量だったが、そんな顔を健くんに見られるのかと思うと悲しくなってきた。"1996年発刊の本書は斬新な語り口で当時話題になった著者デビュー作。

個人的には著者の本は未読だったのですが。ミステリにはまっている事もあり、初めて手にとってみました。

さて、そんな本書はあまりにあっけなく(冒頭22ページ)で殺された幼い9歳の五月こと"わたし"が殺されて死体になった後も【変わらず物語の語り部として】引き続き、大人たちの追求から自分の死体を隠そうとする健と弥生の2人の兄弟の様子を映像的に描いているのですが。

まず、やはり驚かされるのは"死体が語り部"という視点の斬新さ、また執筆時16歳の著者の【無駄のない文章、構成力でしょうか】それが本書の非凡さを感じさせつつも、肩の力を抜いた自然体で書いたようにも感じられるのに興奮しました。

また一方で、内面描写は死体の"わたし"だけで、健や弥生他の登場人物たちは映画の様に態度や言動しか描写されていないので【内面の心理状態は読み手が推測するしかない】のも、例えば"優しい少年"として登場してきた健が次第にサイコパスじみて不気味に見えてきたり、とても効果的に効いていると思いました。

早熟な才能にびっくりしたい方や、昭和の雰囲気漂うミステリ好きな方にオススメ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?