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ブリキの太鼓 第三部

"彼にはもうしゃべることがない。なぜなら、以前にはぼくの背中にのっていて、それからぼくのこぶにキスしたものが、これから先は、面と向かってぼくに近づいてくるのだから。"1959年発刊の本書は戦後ドイツ文学における重要作。"3歳で成長を止めた少年"によるシニカルな傍観物語、第三部。

個人的には一部二部と読み終えて、成長を決断したオスカルがどうなっていくのか?興味を持って手にとりました。

さて、そんな本書はドイツ敗戦後。混乱の最中で家族のマリーアと息子が闇市で商いして生計をたてる中。経済的、社会的な自立を迫られたオスカルは石工、そして美大のモデルをしつつ看護婦に恋焦がれたりと【青春を謳歌する前半】後半は再び太鼓を手にしたことで、お金儲けや名声を得ることに成功するも、今度は殺人事件に巻き込まれたり、過去に出会ってきた人たちと再会を果たしつつ、30才になったオスカルがこれまでを【振り返り、総括するかのように】物語は終わりを迎えるわけですが。

まず、最終巻となる三部を読み終えての全体感想としては、後書きによると著者は『一つの時代全体を、その狭い小市民階級のさまざまな矛盾と不条理を含め、その超次元的な犯罪も含めて、文学的形式で表現すること』と本書も含めた『ダンツィヒ三部作』の意図を書いているらしいですが【寓話が込められているかのような曖昧さ】を含めオスカルが幻想的に語るエピソードを『中の人』"ぼく"によって"セルフツッコミ"的に現実へと着地させるテキストは独特で。戦中、そして価値観が一転する敗戦後の【著者自身の個人的受容】としての必然性から『自然に生まれたのか』それとも文学的野心から『周到に意図されたのか』やはり気になりました。

また、周囲に生まれていく【おびただしい死者を糧にするかのように】一見、無邪気なまでの冷淡さで生き延びていく主人公のオスカルに感情を寄せるのは難しい部分が一部、二部ではありましたが。身長が伸びたとはいえ、一般成人男性としては相変わらず背の低いまま、またこぶも出来てしまったオスカルが、30才まで社会で懸命になって生きていくも【もうぼくは何も言うことがない】と嘆くようにラストで語る三部は、何とも魂の苦悩を聞いている様で、色々と経験してきた社会人として刺さる部分がありました。

戦後ドイツ文学の重要作として、また『中年の危機』ミッドライフクライシスを感じている方にもオススメ。

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