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緋文字

"それには魔力があって、彼女を普通の人間関係から取覗き、彼女だけの世界に閉じこめたのだった"1850年に発刊された本書は、美しい自然の中で神と孤立した人間との対峙を描くゴジック・ロマンスの傑作にして、アメリカ文学における"最初で最も重要な女性主人公"の強さが印象に残ります。

個人的には何度も映像化されている事から、もちろん名前は知っていたものの、いわゆる"夫がいる女性が、別の男性の子を産む"姦通の物語というのに何となく敬遠してしまっていたのですが。やはり【文学史上ちゃんと読んでおかねば!】と今回手にとりました。


さて、そんな本書は冒頭からいきなりクライマックス。イギリスの植民地の一つであった、初期移住者たち"ピューリタン"の解放的な気風と厳格さが同居し、魔女狩りも横行している田舎町、ボストンを舞台に、人妻らしい美しく若い女性が赤子と一緒に【住民の熱狂的な見せしめとして】上着の胸にA(Adultery=密通・姦通・不義)をあらわす緋文字を付けさせられて暮らさないといけない事を言い渡されるシーンから始まるわけですが。

彼女がいくら問い詰められても【頑なに沈黙しつづける密通の相手とは?】を探っていくミステリー的な展開をしていくのかな?と思いきや、それに関しては割とあっさり、というかバレバレで。表面上の物語だけを追っていくと【割とシンプルな事もあり】むしろアメリカ大陸の開放感を代表するかの様に無垢な赤子(娘)そして自立した女性主人公が活き活きと魅力的に描かれている一方で、名誉が!立場が!と保身ばかりを考え、イジイジし続ける男性登場人物達に終始イラっとさせられてしまった。

一方で、本書が【アメリカ史上有名なおぞましい事件】にして汚点とも言われる、1692年に起きた156人が魔女の容疑者として逮捕され、19人が処刑された『セイレムの魔女狩り』を著者が調べるうちに勤める税関の建物で、事件にまつわる『緋文字の文章』を発見、自身の先祖が積極的に魔女裁判に関わってきた事に衝撃を受け【ピューリタンの対立と異分子放逐の理由】を追い求めた経緯を【小説という形式で発表したメタフィクション】として捉えると、またどうして、混沌し未成熟なアメリカ社会において【自己のアイデンティティを掴むのに苦労した様子】が感じ取れる様にも思えました。

AdulteryからAble、Angel、密通から可能、天使へと自立していく強い女性に共感したい誰かへ、また独立前のアメリカ大陸の様子を知りたい誰かへオススメ。

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