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悲しき熱帯1、2

"世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるだろう。制度、風俗、慣習など、それらの目録を作り、それらを理解すべく私が自分の人生を過ごして来たものは、一つの創造の束の間の開花であり(中略)恐らく何の意味ももってはいない"1955年発刊の本書は構造主義のバイブルとなった傑作紀行文、記録文学。

個人的には800ページ近い内容に積読になっていましたが、主宰する読書会の課題図書として今回ようやく手にとりました。

さて、そんな本書は20代の時にブラジルのサン・パウロ大学で社会学を教えながら先住民の調査や補助金でキャラバンを仕立てブラジル横断を敢行したときの記録や記憶を20年後【40代半ばになって書き下ろした】もので、第二次大戦でのアメリカへの船での亡命話からまるで夢みるかのように【先住民たちとの回想】をはさみながら【人類や人間の類似性に対する考察、西洋中心主義に対する批判】が語られているのですが。とはいえ、冒頭の『私は旅や探検家が嫌いだ』など、本書がよくある『探検記』としてイメージしていると、その矛盾をはらんだ語り口に些か驚かされてしまう。

とは言え、順番に紹介される先住民族たちのエピソードのうち、写真も収録された【西洋文明に侵食される前】『人類の幼年期的な美しさ』をみせる、ナンビクワラ族への特に哀切をこめて描かれた部分には心が動かされるところがあったり。

また全体の中でも『人間不平等起源論』『社会契約論』で知られる思想家ジャン=ジャック・ルソーを『哲学者のうちで最も民俗学者であった』と語りつつ【西洋社会を批判的に述べる終わり部分(一杯のラム)】は特に熱が込められていて、あてられるような読後感でした。

著者の代表作の一つ、構造主義の古典的名著としてはもちろん。1930年代のブラジル先住民族の様子を知りたい方にもオススメ。

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