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悪霊

"そしてぼくらは気が狂い、悪霊に憑かれて、岸から海へ飛びこみ、みんな溺れ死んでしまうのです。それがぼくらの行くべき道なんですよ。"1873年発刊の本書は、著者の五大長編の1つにして、1869年のネチャーエフ事件に着想を得て描かれた不朽のポリフォニー小説。


個人的には主宰する読書会の課題図書として、また五大長編としては四冊目として手にとりました。

さて、そんな本書は革命的思想が込められているとして、スターリン体制下では発禁処分だった作品で。無神論的革命思想を『悪霊』に見立て、アンチキリスト的超人であるスタヴローギンに影響を受けた男女がそれぞれに【憑かれたように思想を語りながら】次々に破滅及び死を迎えていく。という何とも救いがない悲劇性に満ちた作品なのですが。

まず既読である『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』などが、当時のロシアの社会状況などを詳しく知らなくても【感情が寄せられる登場人物】がいるため、結果として割と読みやすくなっているのと比較すると、本書に関しては詳しく、あるいは具体的に説明されないままに登場人物たちが【ハイテンションな長広舌】を続けていくので、初回時に読み終えた時は何とも置いてきぼりされたような【読みづらさ、居心地の悪さ】を覚えてしまいました。(『白痴』とは近い感じ)

一方で、執筆当時の著者の置かれていた立場や、もとになった『ネチャーエフ事件』やその社会背景、または様々な【考察に目を通した上で再読】すると(それでも洗練されているとは私には思えませんでしたが)【ゲーテの『ファウスト』を下敷き】に当時の知識人や事件を意欲的に(皮肉も込めて)タイムリーに取り込みながら描かれていることが朧げながらわかってきて、何とも【読み応えがある面白さ】を今度は感じることが出来ました(ニーチェとかの当時の知識人に影響を与えたのも納得)

五大長編の中でも著者の思想が色濃くあらわれた一冊として、また登場人物達が一つの物語に溶け合うことなく【独自の価値感で行動し続ける】ポリフォニー小説の事例としてもオススメ。

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