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インド夜想曲

"これは、不眠の本であるだけでなく、旅の本である。不眠はこの本を書いた人間に属し、旅行は旅をした人間に属している"1984年発表の本書は著者代表作にして映画化もされた、失踪した友人を"探して"インド各地を旅する思索と暗示に満ちたメタフィクショナルな十二の夜の物語。

個人的には主宰した読書会の参加者の方にすすめられて手にとりました。

さて『書くその場において、そして書かれたものにおいては書き手は不在となる』"顔のない作家"フランスのモーリス・ブランショの"夜熟睡しない人間は多かれ少なかれ罪を犯している。彼らはなにをするのか。夜を現存させているのだ。"と意味深な引用の冒頭から始まる本書は、インドで失踪した親友のシャビエルを探して、イタリア人の主人公『僕』がインドに実在する都市、ボンベイ、マドラス、ゴアの3つの都市を訪れる【12のエピソードが約152ページで収録されている】というスタイルで。一見すると(あとがきではないが)"月並な旅行記"と思いきや、散文的でゲーム的【ミステリアスなメタフィクション物語】に仕立てられているわけですが。

イタリア文学の名翻訳者、須賀敦子の訳が素晴らしいこともあるのでしょうが、すらすらと読みすすめることが出来、最後の二章で一応のミステリー的な謎解きもあって【割とあっという間に読み終えた】のですが。ただ、その後に自然とまた最初から再び読み始めてしまう。そんな【不思議な中毒性のある作品】だと感じました。

また、本書で描かれる『インド』は作中に登場する印象的な人物、例えば過去や未来を見通すことが出来る兄、その兄を背負った弟コンビ他があらわすかのように、いかにも【アジア的な神秘さや、混沌に満ちた国】として描かれているのですが。残念ながら未だ未踏の国ですが、急激な経済成長を遂げた現在、比較して【実際の様子はどうなのだろうか?】そんな、ちょっと昔の旅行記的な楽しみもやはりありました。

イタリア現代文学の傑作として、また旅やインド好きな方、あるいはミステリアスな物語が好きな方にもオススメ。

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