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雇用,利子および貨幣の一般理論(上)(下)

"既得権益の持つ力は思想のもつじわじわとした浸透力に比べたらとてつもなく誇張されている、と私は思う。思想というものは、実際には、直ちに人を虜にするのではない、ある期間を経てはじめて人に浸透していくものである"1936年発刊の本書は各国の経済政策に大きな影響を与え続けている革命的名著。

個人的には不勉強だった学生時代に遂に未読のままだったのですが。主宰する読書会の課題図書としてようやく手にとりました。

さて、そんな本書は20代の時、20世紀初頭の文芸活動『ブルームズベリー・グループ』でヴァージニア・ウルフ夫妻他と一緒に中心人物の1人だった著者が、1930年代のロシア革命後の社会主義の台頭、世界的な大恐慌、大失業時代と揺れ動いていた時代に当時主流であった『国富論』アダム・スミスの【いわゆる"市場は神の見えざる手"によって自動調整される】とする古典派経済は学に対する反論として【不況の原因を有効需要の不足に求める理論体系】(=政府の積極介入で経済はコントロール可能)として発表したもので。所得、貯蓄および投資の定義、消費性向、投資誘因、貨幣賃金と物価と、現実的な解決策を打ち出せない古典派経済学に異を唱えつつ、丁寧に議論を展開しているのですが。

まず【専門的な解説】は、本書の上下巻の解説や後書き、他の知識人の方にお任せするとして。本書で述べられている『理論体系』自体は、結論だけ抜き出せばジョン・ヒックスによる画期的な【IS−LM分析】という"要約"を理解すれば事足るのかもしれませんが。おそらくは原文ではかなり難解であろう本書を【豊富な注釈を含めて、かなり苦心して翻訳してくれている】ので、発表時の著者の『創造性や熱意』がテキストから強く伝わってくるのがとても良かった。

また、前述の『ブルームズベリー・グループ』に属する当時の上流知識人として、確かに今では理論の欠点とされる【政府は民間に比べて政策立案、実行能力に優れ、合理的な判断をするだろうとする仮説】『ハーヴェイロードの前提』(=国が借金して公共投資を行い、国民の雇用や所得が増え、税収が増えると当然に国は借金を返すはず)の現実的な崩壊は確かに【一種の理想論、エリート主義であった】かもしれないといえるかもしれませんが。

その後に主流となったフリードマン等のリバタリアニズム"アダム・スミスの復権"とも言える【新自由主義が結果、巨大な格差社会を生み出してしまったり】またコロナ禍における【底の抜けたような各国の財政政策】またケインズ経済学の流れとされる『MMT(現代貨幣理論)』。ハイパーインフレの可能性があっても、自国通貨を発行している国家は『需要と供給のバランスが適切に保たれ』『インフレ率が過剰にならなければ』【いくらでも財政出動は可能】といった議論が盛んに行われている今、あらためて経済学理論の流れをおさえるためにも、やはり本書は【『前提』として普遍的な必読書】ではないかと思いました。

経済学の普遍的な名著としてはもちろん、かっての小泉政権の『新自由主義路線』そして故・安倍政権のケインズ的な『アベノミクス』、そして『MMT』や理解を深めたい方にもオススメ。

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