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太陽と乙女

"『眠る前に読むべき本』そんな本を一度つくってみたいとつねづね思ってきた。(中略)いろいろな文章がならんでいて、そのファジーな揺らぎは南洋の島の浜辺に寄せては返す波のごとく、やがて読者をやすらかな眠りの国に誘うであろう。あなたが今手に取っているのはそういう本である"2017年発刊の本書は、著者の14年間にわたる小説以外の文章をほぼ全て収録したエッセイ集。

個人的には著者の過ごし、それを元に描く京都や奈良といった作品世界には【関西在住の私の日常生活にとっても馴染みのある風景が描かれている事から】ついつい新刊が出る度に手にとってしまうのですが。そんな意味で言わば舞台裏を覗き見するような感覚で興味を抱き本書についても手にとりました。

さて、そんな本書は第7章にわけて登美彦氏と『読書する』『お気に入りを語る』『自著とその周辺』『ぶらぶらする』『日常』『日記を読む』『空転小説家(台湾雑誌でのコラム)』と分類された、著者いわく"長さも内容もバラバラであり、肩に力の入った文章が多い、胃にもたれるし、続けざまに読むとすぐ飽きる"文章が掲載されているのですが。

特に、以前から作風に影響を受けているのでは?と感じていた内田百閒について【描くべき対象と描く道具が一致した世界と言ってもいいし、文章が消えれば何も残らない世界と言ってもいい】と評し"こんな風に書きたいとも思った"と今でも書き方に迷うと読んでいると書いているのに、納得感というかストンとおちる感覚がありました。(またそれ以外にも執筆姿勢へのカフカからの影響も興味深い)

また、『夜は短し歩けよ乙女』=京都の飲屋街+不思議の国のアリス、『ペンギンハイウェイ』=住宅地に住む少年+ソラリス、『四畳半神話体系』=リア王といった、著者の【日常と非日常の境目が曖昧な作品世界の源泉を知ることが出来て】こちらも納得したり、そんな執筆を支える親友や妻、家族とのエピソードも合間に清涼剤のように挟まれていて、あったかい気持ちになったりしました。

最近はスランプ感を著者自身は感じているみたいですが。長く書き続ける中の作風の変化も含めて楽しませてほしい。そんなおこがましいエールも一読者としておくりたくなりました。

全ての森見登美彦作品ファンにオススメ。

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