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群衆心理

"群衆は、弱い権力には常に反抗しようとしているが、強い権力の前では卑屈に屈服する(中略)常にその極端な感情のままに従う群衆は、無政府状態から隷属状態へ、隷属状態から無政府状態へと交互に移行するのである"1895年発刊の本書は心理学視点で群衆を解明しようとした普遍的・古典的名著。

個人的にはSNSやマスメディアでの盛り上がりとは良くも悪くも全く違う展開となった『衆院選2021』に思う所があって手にとりました。

さて、そんな19世紀末の同時代のいわゆる『ダルド=デュルケム論争』社会は個人の模倣でしかないというタルド、社会は個人の集まり以上のものであるというデュルケムといった先駆者達の論争に遅れて発表され、また若きヒットラーが読んでいたことでも知られる本書は、フランス革命や産業革命によって西欧を支えていた伝統的な価値観が崩壊、一般市民という『群衆』が【存在感を増し、歴史を動かすようになってきたと指摘】三編にて心理学視点に立って、第一編では『群衆の精神』として、その特徴として【衝動的であったり暗示を受けやすくも徳性もある】ことを。第二編では、そんな『群衆の意見と信念』がどういった民族性や伝統、教育や幻想で生じ、また【指導者の行動『断言、反復、感染』や威厳によって説得されるか】を。また第三編ではあらためて『群衆の分類』として、異質の群衆として名称や肩書の『ない』あるいは『ある』群衆の区別や、同質の群衆内での党派や仲間、階級といった分析を行った上で【未熟な精神に伴う群衆の非合理的な行動】に警鐘を鳴らしているわけですが。

まあ、全体として内容以前に感じるのは幾多の軍人官吏を輩出した名門に生まれ、本書以外にも多方面にわたって学問的な知識を所有し、著作も多い著者の【実にラディカルな語り口】でしょうか(ひらたく言えば口が悪い)同国人のロベスピエールやナポレオン、レセップスはもちろん、キリストや釈迦までバッサリと事例として取り上げているのが、遠く離れた島国の読者として、新鮮かつ刺激的でした。(=用語や名前がわからず、長い注釈を読む羽目にもなるのですが)

また、やはり特に『第一篇から第二篇』に関しては現代にも見事にあてはまると感じる指摘も多く、特に国内外の【政治情勢に不満や不安を覚えている方】の中には直接的共感を覚える方も多いのではないかと感じましたが。ただそれが、本書でも著者が述べているように一見野蛮かもしれない『群衆』のネガティブな面ばかりに眼差しが向く『断絶』になるのではなく『しばしば英雄的行為も行う』面にむしろ目を向けて【分断ではなく草の根的な『連携』活動】に地道に希望をもって繋げていく方へと向かうべきではないか?と私自身は思いました。(なんとなくオルテガの「大衆の反逆」とセットで読みたい)

国内外の政治情勢や民主主義に関心ある方へ、また社会心理学の古典的名著としてオススメ。

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