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無縁・公界・楽

"原始のかなたから生きつづけてきた『無縁』の原理、その世界の生命力は、まさしく『雑草』のように強靭であり、また『幼な子の魂』の如く、永遠である。"1978年の初版に補論を加えた本書は、日本、そして人類全体の共同体における無縁、アジールや公界人の必要性について示唆してくれる。


個人的には、著者の入門本とも言われる『日本とは何か』が知的好奇心を大いに刺激してくれた事から続く2冊目として本書を手にとりました。


さて、本書は『まえがき』で提起しているようやな、かっての生徒に指摘された【何故天皇は滅びないのか】【なぜ平安・鎌倉期にのみすぐれた宗教家が輩出したのか】という難問に対して、実証的に著者が立ち向かっているのですが。

ベストセラーとしての宿命として本書の内容が多くの批判にもさらされたらしいとしても、まず、その【研究者、教育者としての真摯な姿勢】に素直に感心しつつ、大胆に風呂敷を広げて展開されていく日本では【無縁・公界・楽】ヨーロッパ文明ではアジール、中国では桃源郷とも称された、主従や親族といった【支配や所有、世俗から切り離された状態】が持っていたポジティブな価値からの戦国期における転化について。あるいは、そこから見えてくる中世社会や人類社会の構造についてや『自由』と『平和』の考察は、やや漠然とした印象は残ったものの、やはり面白く拝読させていただきました。

また、本書は『増補版』という事で、初版の250ページが著者あとがきと共に終わった後で、補注や補論が約120ページも加えられて収録されているわけですが。こちらも授業が終わった後で、さらに追加の補習を受けているような贅沢さを感じ、こちらの増補版バージョンで購入して良かったな。そんな満足感を与えてくれました。

日本中世史における知的刺激に溢れる文献を探す歴史好きな誰かに。またSNSや技術の発達でますます社会に息苦しさを覚えている方にもオススメ。

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