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善の研究

"終に臨んで一言して置く、善を学問的に説明すれば色々の説明はできるが、実地上真の善とはただ一つあるのみである。即ち真の自己を知るというに尽きて居る。"1911年発刊の本書は日本人による最初の哲学書にして、二元論を経験の根源『純粋経験』による東洋思想と西洋思想の統一に真摯に挑んだ独創的な名著。

個人的には、森見登美彦の『四畳半神話体系』で、語り手たる『私』と悪友の小津が本書を片手に不毛な活動をしている箇所を読んで、そういえば。と積読の海から回収して手にとりました。

さて、そんな本書は、もともと著者が30代の時に書いた高等学校での講義の草案をベースにしているわけですが、明治の学生達にとっても後書きによれば難解であったらしい事に何だか親近感を覚えつつ(笑)しかし、西洋的なものを【そのまま受け入れていた時代に】根源を設定して。いわばゼロから出発して【真摯に一つ一つ解きほぐしていく】独創的な展開、また加えて言葉の使い方も格調高く、読み進めながら時代を超えて著者の真剣な講義と向き合っているような緊張感があって楽しかった。

また、全く哲学的知識を持たずに本書を手にとった人には、多少なりと難解さや突然感もあるのではないか?とも思う一方で【ある程度の知識がある多くの人にとっては】むしろ輸入された【認識する主体と認識される客体】といった西洋哲学で堅く感じられる『二元論』を日本人なら感覚的に現代でも共感できる禅や仏教、自然観で軽やかに捉えていく姿は一部に矛盾があったとしても、とても共感できると思われるのですが。本書を座標軸に『京都学派』が誕生、または大東亜共栄圏の考えにも結びついてしまったのか。などの歴史も含めて感慨深い読後感でした。

日本人として何度も読み返したくなる本を探す人、あるいは価値観が混乱している時代に、自分なりの軸を見つけたい誰かにもオススメ。

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