見出し画像

『表現の自由』入門

"本書全体に通底する基本的問いは道徳的なもの、すなわち、『表現の自由の価値とは何か?』また『表現の自由にはどのような制限が課されるべきか?』である。"2015年国内紹介された本書は断定や結論ではなく正面から、そして様々な視点から。あらためて【表現の自由】を考えさせてくれる。

個人的には2019年開催の『あいちトリエンナーレ』の企画展を巡って、様々な方々が『表現の自由』という、おそらく【一人一人が前提として一致していない畏れのある言葉】を多用されているのを見て不安に、とはいえ私自身も"曖昧なまま、向き合ってなかったな"と内省する必要を感じた事から本書を手にとりました。

さて、オックスフォード大学にて2009年に発刊された哲学入門シリーズの一冊にして【約100ページの短く読みやすい】本書は、冒頭にヴァルテールの"私は君の言うことを徹頭徹尾嫌悪するが、しかしそれを言う君の権利を死ぬまで擁護する"の引用、そして合衆国憲法第一修正と国連人権宣言第19条を紹介しているのですが。注目すべきは、とはいえ【その法律を金科玉条とするのではなく】『表現の自由』の守られるべき価値と"線引きされ"課せられるべき制限について【真正面から論点を示している】事だと思いました。

具体的には、まずミルの『自由論』を確認した上で、イスラム(宗教)諷刺、ホロコースト、ヘイトスピーチ、ポルノグラフィ(と芸術)、インターネット(特性と危険性)で起きた事例と様々な意見を取り上げ、最後に『言論の自由の未来』と題して。今日の政府の一部は"表現(の自由)を統制することで、結果を抑制したいのである"と指摘【結論は出さずに】民主主義に警鐘を鳴らして終わるのですが。一方で『表現の自由』が【人を侮辱したり軽蔑したりと傷つけるおそれを抱えている】事も【存分に指摘している】バランス感覚が素晴らしいと感じました。

あくまで『入門』とはいえ【不確かな時代を生きる私たち】にとっての切実で有意義な問題提起を本書はしてくれています。正しい、正しくないといった【結論】の前に、正しさを立ち止まって考えたい誰かにオススメ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?