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コリーニ事件

"わたしは法を信じている。きみは社会を信じている。最後にどちらに軍配があがるか、見てみようじゃないか"2011年発刊の本書は、現役の刑事事件弁護士でもある著者初の長編にして、祖父を含むドイツの過去と対峙し、今に問いかけてくる社会派リーガルサスペンス。

個人的には著者デビュー作にして、日本では2012年本屋大賞『翻訳小説部門』第1位となった前作『犯罪』がとても面白かったので、本書も手にとってみました。

さて、そんな本書はかっての人気刑事ドラマ『刑事コロンボ』よろしく、犯人が最初から明らかにされる殺害シーンから始まり、物語は犯人探しではなく、むしろ"ホワイダニット"つまり八十代ともう先は長くなく、また人に憎まれるよりは尊敬を集める名士を【なぜ殺す必要があったのか?】に焦点を絞り、理想に燃える新米弁護士と老獪なベテラン弁護士が対峙するスリリングな法廷劇として展開していくのですが。

『犯罪』でも印象深かった、無駄に感情を煽ったりしない【抑制された文章(と名訳)】そして著者の職業体験から暗に強い説得力をもって伝わってくる"人間には白も黒もない…灰色なものさ"加害者も被害者も同じ【薄氷の上の踊り手】と訴えてくる魅力は本書でも同じくで、200ページ弱とは言え、読み易くかつ【読み応えあり】でした。

一方で、本書のネタバレになってしまうので詳しくは語りませんが。本作がベストセラーになったことで実際にドイツ連邦法務省が動いた【まさに小説が政治を動かした】部分に関しては、著者自身がどこまで政治的にはたらきかける意図があったのかはわかりませんが【自らの祖父の過去と向き合った】事が本書誕生に繋がったのは間違いないわけで。とかく政治家も含めて"身内に甘い"醜聞を目にする機会が多い最近、著者の透徹した眼差しには【凄みと清涼さが同居しているような】魅力を覚えました。

ドイツを舞台にした作品、抑制された法廷劇が好きな方へ。また善悪や白黒をつけない作品が好きな人にもオススメ。

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