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解錠師

"その昔、僕は"奇跡の少年"だった。やがて、"ミルフィードの声なし"となった。金の卵。若きゴースト。小僧。金庫破り。解錠師。どれもぼくのことだ。でも、きみはマイクと呼んでくれればいい。"2009年発刊の本書は声をなくした少年の光と影を描いた犯罪小説にして鮮やかな青春小説。

個人的にはミステリにはまっている事から、MWA、CWAの両賞など様々な賞を受賞している本書も手にとりました。

さて、そんな本書は8歳の時にある出来事から言葉を失ってしまった青年マイク。彼の物語が刑務所に収監されている場面から始まり、一人称の語りで【どんな経緯で凄腕の金庫破り"解錠師"になったのか】また【どうして服役することになったのか】が、二つの時間軸を行き来しながら少しずつ打ち明けるかのような形で綴られていくのですが。

国内では"このミステリがすごい!に選ばれていたり『推理小説』として受賞している本書。実際に著者が【超一流の金庫破りに合法的に取材して書きあげた】侵入時のピッキングの場面こそ、心理描写も含めて『犯罪小説』として緊張感はありましたが、いわゆる作品中で事件が起き、その犯人が誰なのか?といった【具体的な謎解き要素がなかった】のが良くも悪くも意外でした。

とは言え、ではつまらないか?と言えば、まったくそんな事はなく、むしろ【すこぶる面白く】本質的には善良な主人公が、せっかく絵描きとしての才能を持ちながら、もう1つの才能、どんな錠を開くことが出来る事を無防備に周囲に披露し続けてしまった事や、絵を通じて心を通わせる恋人アメリアの為に。と【悪の道、犯罪者として次第に転落していく】姿は、鮮やかながら切ない物語で、最終的に二つの時間軸が見事に収束するラストも含めて、素晴らしい作品だと思いました。(映像化にも向いてる作品ですね)

読みやすい犯罪小説にして『青春小説』を探す人へ。良質なエンタメ作品が好きな人へ。

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