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人口論

"人口は等比級数的に増加するが、食料は等差級数にしか増えない。そして、人の性欲はなくならない。"1798年に当時の人間理性啓蒙による理想主義批判を込めて刊行された本書は人口と食料のアンバランスさが生む必然としての貧困、生存権の否定までをシンプルに切り込んだ古典にして、現代の社会問題にも繋がる名著。


個人的には、産業革命"グレート・ダイバージェンス"前、農耕社会が続いてきた【19世紀までの経済】を説明する際や【ダーウィンの進化論(種の起源)】にも大きな影響を与えたと紹介されたり、また現代においても続く人口問題を考える際に度々引用されるにも関わらず、本書を読む機会がなかった事から今回手にとりました。


さて、そんな本書は当時30代だった著者が、フランス革命の【熱狂から失望へ】と変貌していった時代において、それでも人間理性による進歩を楽観的に提唱していたコンドルセやゴドウィン(たまにアダム・スミス)への批判や懸念を若者らしく込めて、前述のシンプルな命題、そして【貧困はなくならない、政府の施策ではなくすのは困難である】という現実主義的な結論を先に述べた上で、各章毎にアメリカの人口増加や古代文明、中国やインドの事例なとを引っ張ってきて著者なりに(やや乱暴に)検証しているわけですが。

個人的には、いわゆる【マルサスの罠】自体は幸いな事に、結果として農薬や技術革新により何とか人類は爆発的に増えても食べる事は出来(新たな弊害は生みつつも)回避できていたり、また著者がしつこく不可能だとしている長寿命化も100年時代に突入と、著者の指摘が現在においては【一部的外れになっている】事には単純にホッと安堵させられます。

一方で、多くの方が読み進めるうちに感じると思われる"(経営者による賃金抑制による)結婚の抑制、その結果生じる悪習、戦争、奢侈、大都市で静かに進行している人口減少"といった本書で多くページを割かれる19世紀イギリス事情には、人口増に悩む世界的情勢とは逆に【少子高齢化へと突き進む某国】を自然と重ね合わせてしまい、一部の言葉を生活保護やベーシックインカム、子ども食堂、移民や貧困問題などに差し替えれば、それに伴う【自己責任論】も含め【まったく古臭さや違和感を感じさせなくて】むしろ、うーむと愕然としてしまいました。

人口問題について関心のある誰かや、様々な社会課題や貧困問題に関わっている人にオススメ。翻訳も素晴らしく読みやすいです。

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