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白の闇

"目が見えない人のなかで最悪なのは、見たいと思わない人だ、という言葉には大きな真理があるわ。でも、わたしは見たい、とサングラスの娘が言った。"1995年発表の本書はポルトガル初のノーベル賞受賞作家による『突然、視力が失われていく世界』を舞台に人間の理性や感情が【極限状態に置かれた際の現実】を描いた寓話的傑作。

個人的にはコロナ渦の今こそ読むべき。と思って、ようやく手にとりましたが。最初に結論を書くと大変に面白かった。

さて、そんな本書は車を運転していた男性の突然の失明から始まり、それが伝染病『ミルクの海』として、男性を診察した目医者や患者たちの間と次々に広がっていく中で、非人道的な収容所隔離、暴動や無秩序の発生など【当然に起こりうる最悪の事態】が起きていくわけですが。

目が見えることを前提に設計された【町や社会の日常が次々と崩壊していく】様子が登場人物達に善人、悪人といった分かりやすい設定を与えず(名前すら匿名性にして)【人間の価値は善意と悪意の狭間で試される】として"たった1人目が見えたままの目医者の妻を中心にしたグループ"の視点で描いている本書。【改行やセリフの括弧書きもない流れるような独特な文体】とともに終始リアリティをもって伝わってきて、没入感と共に一気に読み終えてしまいました。

また本書では、まるで登場人物たちが試練を与えられているかの様に、収容所を巡る食料配布問題や亡骸をどう扱うかなど、幾度も【人間の良心や尊厳に訴えかけてくる】重たい場面があるわけですが。苦悩する登場人物たちの心情に同化しながら【果たして自分ならどうするだろう】と何度も考えさせられました。

自粛警察やネットポピュリズムが横行する現在で【人間の良心や尊厳】を立ち止まって考えたい全ての方にオススメ。

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