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古都

"そのうちに、京都じゅうが、料理旅館になってしまいそうな、いきおいやな、高台寺みたいに…"1962年発刊の本書は、著者いわく『異常な所産』となった作品にして、四季折々の京都の行事や名所を舞台に全く違う境遇で育った双子の姿を描いた文体や場面の美しさが光る長編小説。

個人的には京都で文学バーもしていることから、これを機に京都を舞台にした文学作品達をちゃんと読んでおこうと手にとりました。

さて、そんな本書は朝日新聞に連載されていたものに、会話部分の京都弁を訂正、全体に加筆補正して発刊されたものなのですが、執筆期間中に眠り薬を乱用していたらしく【呉服問屋の1人娘として育った捨て子の千恵子が、北山杉の村娘にして自分と瓜二つの苗子と偶然再会する物語】という筋こそ一応存在しているものの、著者自身が振り返って『うつつないありさまで書いた』と述べているようにまとまっているとは言い難い印象で、個人的には双子の瓜二つの設定や、魅力的な登場人物たちが活かされていないように私には思われました。

一方で、むしろタイトル通りにこちらが主役とも思われる古き伝統がまだ現存していた『古都』京都の一年を通しての【年中行事や実在する名所案内】としては近代化で既に失われた様子も含めて本書は流石に秀逸で、平安神宮の桜見、祇園祭に時代祭、そして老舗店の『森嘉』の豆腐、『大市』のすっぽん料理など、物語以外の部分で叙情的、あるいは自然の美が幻想的に描かれていて、楽しませていただきました。

京都旅行のお供の一冊として、また『すぐれた感受性をもって、日本人の心を表現した』ノーベル賞受賞作家の代表作の一つとしてオススメ。(佐々木酒造のお酒もお供に)

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