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理想の書物

"私が願ったのは、本を美しい活字を使って美しい紙に刷り、美しい装丁で製本するのが可能だという事実を示すことです。"1982年発刊の本書は「モダンデザインの父」の晩年の印刷所での徹底した理想の書物づくり、書物芸術を論じたエッセイ及び講演記録を収録した理想と情熱に溢れた良書。

個人的には京都、大垣書店が2021年にオープンさせた『堀川新文化ビルヂング』で(店舗コンセプトを伝えるため?)平積み猛プッシュされていたこともあり、手にとりました。

さて、そんな本書は19世紀のイギリスの装飾デザイナー、詩人、社会主義思想家として多方面の分野で大きな業績を挙げ『モダンデザインの父』と呼ばれ、また中世世界を舞台にした物語作家としても『指輪物語』のJ・R・R・トールキンに影響を与え『モダン・ファンタジーの父』とも称される著者の晩年の1891年に設立した私家版印刷所ケルムスコット・プレスでの約8年間で全部で53点の美しい書物を印刷した理想の書物づくりの様子や、その期間に書かれたり語られた、現存するエッセイや講演『書物芸術論』インタビューが網羅されているのですが。

著者について、美術史好きとしてはハント、ミレイ、ロセッティらの『ラファエル前派』との関わりや、アーツ・アンド・クラフツ運動の主導者として【名前こそ以前から知ってはいた】ものの『理想の書物づくり』活動はもちろん、思想、そして当時の社会での評価といった事には全く疎かったので、本書は【著者の研究資料としても非常に貴重】だと思いました。

また、産業革命により世界の覇権国家となっていた当時のイギリス、それと比較した形で周辺のヨーロッパ諸国、そして新興国アメリカの【初期の出版事情の混乱した様子】が著者の憤りも含めた活字体、装飾、様式に対する試行錯誤から間接的に伝わってきて、こちらも非常に新鮮でした(ゴシック芸術に対する評価の高さも同様に感じました)

書籍デザインや製本に関わっている人はもちろん、紙の本を愛する全ての人にオススメ。

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