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黒蜥蜴

"美しい女の左の腕に、一匹のまっ黒に見えるトカゲが這っていた。それが彼女の腕のゆらぎにつれて、吸盤のある足をヨタヨタ動かして、這い出したように見えるのだ。"1939年発刊の本書は戯曲にドラマと数々の女優が演じた魅力的な女賊黒蜥蜴と明智小五郎が対決するスピーディな探偵小説。

個人的には7月28日が著者の文学忌、石榴忌である事から、また黒蜥蜴の名前こそ三島由紀夫の戯曲で知ってはいたが、原作は未読であった気がして手にとりました。

さて、そんな本書は帝都東京の暗黒街の女王、左の腕に黒蜥蜴の刺青をしているところから『黒蜥蜴』と呼ばれる美貌の女賊が、大阪南部の大富豪が所有するダイヤとその令嬢を狙って、名探偵の明智小五郎と頭脳戦を繰り広げていくわけですが。

まず感じたのは、冒頭の黒蜥蜴の登場シーン、全裸でのなめまかしき舞踏『宝石踊り』から最初の明智小五郎との対決までに辿り着くまでの早さに代表されるように【全編通してスピーディーで映像的な展開が続く】事でしょうか。加えて、ほとんど【黒蜥蜴と明智小五郎の会話劇】と言ってよいほど対決する2人の会話が多いことも新鮮で。著者自身が『かたき同士が愛情を感じ合う』と解説しているのも納得の辿り着いたこのラストかな。と思いました。

また、私自身が大阪に縁があることから、実は手にとるまで知らなかったのですが。本書の舞台の大半が大阪である事から、黒蜥蜴が【初代通天閣の展望台で取り引きをするシーン】など、いわゆる大大阪時代の雰囲気や風俗が物語の余白部分から少しだけ伝わったくるのも予想外の楽しさとなりました。

古き良き探偵小説、冒険小説を読みたい誰かへ。また戯曲などで黒蜥蜴を知っている人にも原作としてオススメ。

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