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虫眼とアニ眼

"ぼくだって子供の頃は持っていたはずなんだが、養老さんは今もその虫眼を持っている。昆虫の肢の毛に感動する同じ眼で世の中を見ているのだ"2008年発刊の本書は、解剖学とアニメと専門は違っても、近い世代として相通じる同士で語られる、自然と人間、若者や子供への思いが真摯に届く。

個人的には『千と千尋の神隠し』が、2019年6月に中国で18年越しに正式上映『内容はすでに知っているが、スクリーンで新たな感動を味わいたい』と大ヒットとなっているニュースを見て、また宮崎駿、養老孟司それぞれの本こそ読んではいても両者の対談を読んだ事がなかったことから本書を手にとりました。

さて、本書は『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』の製作裏話を肴に1997年、1998年、2001年と収録した3つの対談、それに養老孟司による『宮崎アニメ私論』さらに宮崎駿による対談の要約及び荒川修作をパートナーに迎えての理想の町"イートハトーブ"がイラストで描かれているわけですが。いつもは良い意味で【好き勝手、自由に発言しているイメージのある】両者が【何となく役割分担】話し手が宮崎駿、聞き手が養老孟司になって、意見をぶつけ合うというよりは【互いに共感し、うなずき合っているような様子】が何とも新鮮でした。

また"自然環境というのは、ものすごいディテールで成り立っていて、いまの人間は、それを完全に無視して生きている"(養老孟司)そして、ディテールを感知する能力を閉鎖した結果として、あまってしまった感性を【人間や都市の人工物ばかりに向けてしまっている】事に警鐘を鳴らしているくだりには、読みながらふと(自身も含めて)【スマホの画面を見続けるばかりになった】周囲の人々を見渡して。自然からのしっぺ返しが起きている?昨今の異常気象も必然なのかなあ。と、しみじみ考えてしまいました。

宮崎駿、養老孟司それぞれのファンはもちろん、約10年前を振り返りたい誰かや、近頃の若者、子どもについて考えている誰かにオススメ。

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