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千歳くんはラムネ瓶のなか

"ーからん、と。心の奥の方で、懐かしい音がする。『美しく在りたいんだ。あの日見た月のように。いつか本で読んだ、ふたの開かないラムネの瓶に沈んだビー玉みたいに』"2019年発刊の著者デビュー作にして第13回ライトノベル大賞、優秀賞の本書は【リア充側視点による】王道的青春物語。

個人的には、どんなジャンルの本も拘りなく読むとはいえ、普段は【専ら古典を読む】私にとっては本書は可愛い女の子表紙も含め正直心理的ハードルはあったのですが。審査員として関わっている文学賞の推薦本として手にとらせていただきました。

さて、そんな本書は結論を先に言えば【予想を裏切る面白さ】で、冒頭から100ページ位までの元野球部のエースにしてイケメン、そして様々な美女に囲まれる主人公達を紹介する展開には【テンプレかつご都合主義的】で多少げんなりしましたが。

そこから学級委員長として不登校のオタククラスメイトを説得し【リア充化をサポートしていく】後半になってくると【劣等感を抱えるオタククラスメイト】に私が共感、感情を寄せられた事もあり、時折紹介される【福井県の地元ネタ】に笑わせられつつ、あんなに最初は完璧過ぎて嫌味に感じた主人公が【なんて良いイケメンなんだ!】と、読後にはちょっと感動すらしてしまいました。

また(本当に読書が好きな方にはそんな方はおられないと思いますが)とにかく難解な哲学書などを手にとっては、こうしたアニメ的、ご都合主義的な展開が多いライトノベルというジャンル自体を本書が題材としている【スクールカースト】的に下に評価する見方も【残念ながら存在している】様にも感じますが。確かに全体としては作品が乱発される中で玉石混交かもしれませんが。少なくとも本書に関しては【王道的かつ真っ直ぐな青春成長物語】として良書だと感じました。

スクールカースト、リア充、福井県といったキーワードに反応した方へ。また異世界転生にマンネリを覚えているライトノベルファンにオススメ。

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