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フェードル

"サラ・ベルナールが、もっとも愛したのがフェードルだった。それはフェードルの中で一番彼女が解放されたからではないだろうか。つまり、ある意味ではフェードルは女性の夢なのだ。"2008年発刊の本書はギリシア神話から題材を得たヴォルテール曰く『人間精神を扱った最高傑作』古典戯曲。

個人的には『メディア』と共に演劇史上で語られる、女性主人公の物語ですが。実は未読だったので手にとってみました。

さて、そんな本書は17世紀、フランス古典主義を代表する悲劇作家ジャン・ラシーヌの代表作の一つとして、ギリシア神話の登場人物たち、フェードル(パイドラ)が夫テゼー(テセウス)が冒険に出て死んだと思われる中、義理の息子イポリート(ヒッポリュトス)に恋をしている事を思わず告白してしまった事で破滅が始まっていく様子が全5幕、約100ページで無駄なく描かれているのですが。

発行者の笹部博司が『演劇は好んで、恋愛を題材にしてきた。それは【恋愛が、人間は愚かで、馬鹿になるためにはもっとも確実で手っ取り早い方法だからだ】』と冒頭で書いていますが、フェードルしかり、登場人物達が欠点こそあれど、根っからの悪人と言うわけでもなく、むしろ【善人寄りにも関わらず『恋愛』をキッカケに破滅したり、痛手を覚える姿】には、何百年前の戯曲ですが、普遍的な共感を感じる事ができました。

また『悲劇的構成、人間観察の深さ、韻文の豊かさ』で"私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る"の名言で今も知られる同時代の啓蒙思想家、ヴォルテールが前述の様に「人間精神を扱った最高傑作」と絶賛したらしいのですが。翻訳を通じてでは韻文の豊かさは感じ取れなくても【全体の洗練された構成、登場人物のセリフのリアリティ】などは、拙いながら自らも脚本を書く立場として、戯曲としての完成度の高さに唸らされました。

女性を主人公にした古典演劇の傑作として、またギリシア神話好きや、物語を書いている方にもオススメ。

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